ユーフォリアの輪郭線

 真夜中、ふいに目が覚めた。部屋には煙たい香りが漂っている。エアコンが止まっているので部屋は暑い。暑さに耐えきれず窓を開けると、湿ってはいるが秋の気配漂う風が髪を撫でる。昼間は残暑のせいでうだるように暑いが、夜は以前よりましになってきた。

「悪い、煙たかったか」
「ううん、暑かっただけ」

 汗ばんだ背中が、時間が経つとともに乾いていく。それでも身体の芯は未だ熱を持ち、私の首筋から胸元にかけて汗が伝っていく。承太郎が手を伸ばして窓を閉め、エアコンのスイッチをいれた。煙草を、口に咥えたまま。私はその光景をじっと見つめていた。映画のワンシーンのように切り取られ、脳裏に鮮明に焼き付く。高校生の頃よりも歳を重ね、大人の色香を身に付けた彼は敵なしだ。

「なんだ」
「いや……かっこいいなって思っただけ」
「……そうか」

 相変わらず口数は少ないけれど、表情が幾分柔らかい印象になった。固かったそれを崩したのは私ではない。少し嫉妬心がわく。
 ずっと片思いだった。友達以上恋人未満という感じだろうか。いつの間にか承太郎は結婚していて、私は切なかったけれど心から祝福した。奥さんはとても美人で、素敵で、彼とお似合いで  残酷なほど幸せそうだったからだ。
 それが、どうだろう。久しぶりに会うと彼の表情は陰り、配偶者となったはずの彼女も去っていた。私は信じられなかった。彼に限って、そんなことはないと思っていたからだ。

「もうすぐ20年か」
「なんの?」
「なまえと初めて出会ってからだ」

 承太郎と出会ったのは、高校生の時だ。その頃は既に彼は有名で、私も名前を聞けばすぐにわかった。近所の本屋でバッタリ会ったように記憶している。
 そして忘れてはいけないのが、エジプトでの旅だ。私は幼い頃からスタンド能力が発現していて、遠距離を得意とするものである。スタンド使いは引かれあう、と承太郎の祖父であるジョセフは言ったが、まさにその通りであった。

 幸いにも誰一人として欠けることなく、承太郎の……ジョースター家の因縁の相手であるDIOを倒し、帰国したあとはそれぞれ好きなように今までを過ごした。私は承太郎と花京院と共にSPW財団へ入ったが、二人よりもスタンド能力は低かったため、主にデスクワークを担当した。
 そしていつしか、承太郎と話すことも、会うことも無くなっていった。

 承太郎が覆い被さるようにして口付けを求める。私はそれを受け入れる。時に獣のように、時に赤子のような愛情をもって。激しい緩急がつけられ、翻弄されてしまう。私は承太郎を見ている。承太郎は私を見ているのだろうか。瞳の奥で熱く燃える炎の中に、私は捉えられているのだろうか。

「なまえ、愛してる」

 狡いな、と自身のことを客観的に思う。それでも幸せなのか、と問われれば私は幸せだと答えるだろう。

「私も愛してる」

 承太郎は私の目を見ている。そこに私は映っていない。

title:誰花/ケモノ
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