求愛給仕

 お気に入りは何人かいる。私以外にもたくさん。だが、みんなもって一日か二日でヴァニラの能力で消される運命にある。
 私は彼の餌だが、こうして日々を生きている。何故だかわからない、あの人の考えていることは。だが外にも出られず、ただ毎日血を吸われるだけの存在はもううんざりだった。この屋敷に来たときはその日暮らすこともやっとで、藁にも縋る思いで  死んでもいいとさえ思っていた。
 私は幸い彼に気に入られたのか、それともただの気まぐれなのか、血を吸われながら殺されるということはなかった。

 吸血鬼でもないのに太陽を浴びることを禁じられ、彼の能力でいつの間にか隣にいることもしょっちゅう。腰を抱き寄せられ、耳元で熱い息を吹きかけられれば、損ねていた機嫌も元通りになってしまう。彼の思い通りにはなりたくないけれど、結局、いいようにくるまれてしまう。

「今日は優しくしてくださいね」
「腹が減っている。少しは我慢しろ」
「いつも貧血で大変なんですが……」

 彼が食事をする時、私はいつも覚悟する。おやつ感覚で血を吸う時もあれば(きっと直前に一人分食べてきたに違いない)、意識を失うギリギリまでの時もある。今回は後者だった。かなり腹が減っているようで、私が血を吸われたことによる貧血で星を飛ばしている間、傷口を執拗に舐め続けていた。
 そんなに名残惜しいなら食べちゃえばいいじゃないですか、と言えば、それは駄目だ、と珍しくそっぽを向きながら答える。

「なまえはこのDIOの隣にいるのが相応しい」
「……」
「なんだ、私が愛を囁いているというのにその反応は」
「いや……どういう意味か分かりかねたので」

 最近は奇妙なことに、以前はしなかったような会話をするようになった。彼なりに言うと愛している、ということを伝えたいらしいが、私はあまり信じていなかった。私よりもはるかに綺麗で豊満な身体をした女性を侍らせているだろう、ということもある。しかし私の考えをよそに、彼は毎夜毎夜私の所へやってきた。やましいことは何も無く、私と同じ寝具で共に眠るだけの為に。狭いことこの上ない。おかげで身動きがとれず、朝起きると身体の節々が痛い。
 彼は私を愛すと言ってくれた。本当だろうか。だが確かめる術も無いので、とりあえず流しておくことにしよう。

 ある日、彼がいつも通り私を食していたときだ。今回は貧血を起こしませんように、と祈りながら事が終わるのを待っていると、彼が急に血を吸うことをやめ、何も言わず背を向けた。どうしたんですか、と問うと、いや、とだけ言ってその場から立ち去ってしまった。私は驚いたが、こんな日もあるだろうと大して気にしなかった。
 だがその日の夜から、彼は私の部屋へ来なくなった。夜は必ずといっていい程やってきていたというのに、ぱったりと姿を現さなくなったのだ。

 遂に餌としての役割を終えたのだろうか、殺されてしまうのだろうか、と考えたが、数日経っても一向にそのような気配はない。たまに執事のテレンスが食事などを運んでくる以外、特に変わりはない。

「DIO様は、どうされたんですか?」

 テレンスに聞いたが、彼は答えてくれなかった。自分の目で確かめてみなさい、と。私は部屋から出るのを禁止されているのですよ、と言うと、テレンスは答える。

「DIO様は外に出るな、と仰ったはずです。なまえ様はもしや、意味を間違って捉えているのでは?貴女以外の方は皆、我が物顔で屋敷内を歩いておりますよ」

 テレンスの言葉に、私は部屋を飛び出した。自分が意味を間違って捉えていたことは恥ずかしかったが、彼の姿を急いで探した。風呂場、書斎、ロビー……どこにもいない。息を切らして廊下を走っていると、物音が聞こえた。すぐ横にあった扉からだ。扉を開くと、彼は私以外の女性を食している所だった。女の首元から、赤い血が床に滴り落ちている。彼は私の姿を目で捉えると、今しがた食していた女を捨て、私を抱きかかえるとすぐさまその部屋を去った。彼の腕の中から見えたのは、真っ赤な部屋で無惨に横たわる女の姿だけだ。

 自室へ戻ると、彼は私をベッドへ押し倒す。少々乱暴だったが、私の頬を撫でる手つきはとても優しい。

「やっと自分の心に素直になったか?」
「手口が大人気ないです」
「その大人気ない手口に引っかかったのは誰だ?」

 私は知らず知らずのうちに、DIOという男の虜になっていたのだった。

title:誰花/嘘つきのパレード
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