なまえは目を覚ました。カーテンが月の明かりを遮り、唯一目につくのは今にも消えようとしている蝋燭の炎だけだ。部屋の空気は重く、息が詰まる。いや、そう感じているのは私だけかもしれない。上半身を起こそうとしても動かない───私の身体を捕らえて、決してはなそうとしない───横で目を閉じ、その彫刻のような端正な顔の、眉間に少し皺を寄せながら静かに呼吸を繰り返す男の顔を見る。

なまえは戸惑った。この男に惹かれている自分、心が揺らめく自分がいることに。絶対にこの男の言いなりにはなるもんか、とこの館に連れられたときに思った。それに、すぐに殺されるだろうとも思った。他にも、私より綺麗で、スタイルも良い女性が数人連れて来られたからだ。彼女達は、DIOにその血を吸い取られてしまった。私もそうなると確信していた。だが、実際には違ったのだ。このDIOという男は、何も話さない。ただ私がいる部屋にやってきて、共に眠る…たったそれだけ。それだけなのだ。それ以上でも、以下でもない。

「DIO」

小さく呼んでみるが、返事はない。もう一度、今度は少し大きく呼んでみたが、それでも反応は無い。私は諦めると、シーツを被りなおす。
彼の名を呼んで、もしも起きたら…私はなんと言葉を発したのだろう。彼の名を呼びたかった、ただそれだけの理由だ。他には何もない。「いつ、ここから出してくれるの?」「なぜ、私を殺さないの?」などとでも聞くことはいくらでも出来るが、彼の顔を見ると…喉の奥に引っ込んで、胃の中に飲み込まれてしまう。そして驚くべき事に、私はこのDIOという男に少なからず愛情を抱いてしまっているのだ。その事実は動かない。愛情は、恋愛のそれではない。どこか母性にも似た、言葉では言い表すことのできない何かが───私を突き動かすのだ。

「なまえ」

彼の顔を見たまま、そんなことを考えていたとき。ふいに、名前を呼ばれた。心地良い重低音が耳に響く。腰に回されていた手は、頭に添えられた。私は知っている。この手が、何人もの命を殺めてきた事を。何人もの命を吸い取り、今日を生きていることを。
DIOは私の名前を呼んだだけで、特に何をするわけでもなかった。頭を軽く撫で、毛先を口元に。その一連の流れは、薄暗い部屋の中でも鮮明に映る。DIOと視線が合った。それだけで、心臓が大きく高鳴る。ああ、私は喰われてしまうんだ。あのキラリと光る牙が首筋に立てられ、肉を切り裂き、管に到達する。あっという間に彼の喉の渇きは潤されることだろう。

現実は違った。彼は薄く笑みを浮かべただけで、また目を瞑り、寝息をたてはじめた。私もその光景を見ながら、また眠りの世界へと旅立つのだった。
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