春よ来い

黒板に先生が書く文字を一生懸命写す姿だとか、欠伸をしようとするのをこらえる姿だとか、友達と話していて笑う姿だとか、体育の時、勢いあまって転んでしまう姿だとか、俺はよくクラスメイトであるみょうじなまえのことを目で追っている。何故だろう。そのことを部活中、バネさんに尋ねてみたら、「ダビデにもついに春が来たんだな!」と豪快に背中を叩かれた。ちなみに今は冬だ。

「天根くん、3年の先輩が呼んでたよ」
「ああ…きっとバネさんだ。ありがとう、行ってくる」
「ううん。テニス、頑張ってね」

片手をあげて彼女の「頑張ってね」という言葉に対応しながら、内心は驚きを隠せない。俺がテニス部ということは、知らないものだと思っていたからだ。
教室を出る前に振り返ると、既にみょうじは席に戻り、友人とのお喋りに興じていた。





「なんだよダビデ、暗い顔しやがって」
「バネさん」

部活前、ユニフォームに着替えていると、また背中を大きな衝撃が襲った。振り返ると、やはりバネさんだった。バネさんは屈託のない笑顔…いや、よそう。この場合はニヤニヤという表現のほうが相応しい。

「お前、最近ダジャレ言わなくなったよな…本当にどうした?俺でよければ相談に乗るぞ」
「いや、バネさんに相談することは、何も…」
「そうか?だったらいいけどよ」

さあ今日も気張って行くぞ!と、バネさんはコートへ飛び出して行く。俺もラケットを取り出すと、バネさんと同じようにコートへ向かう。
グリップを握り締めてボールを追っている間は、何も考えず集中できた。だが一度でもコートを離れると、頭の中では、昼間にみょうじと一言だけ会話をしたシーンばかりが浮かぶ。
それは夜になっても続き、俺はとうとう頭がおかしくなってしまったのかと思う程だった。明日、学校でみょうじと会ったらどんな顔をすればいいのか分からない。ましてや、今日俺がどんな顔で過ごしていたのかも分からなくなりそうで、鏡を取り出して確認する、なんて事を夜中に何回もした。お陰で、朝起きるのが大変だった。





「おはよう、天根くん」
「ああ、おはよう」

下駄箱で、偶然にもみょうじと出会った。俺は平常心を装い、挨拶を返す。教室にたどり着くまで、昨日やってたお笑い番組だとか、今朝のニュースだとか、そういう話をした。我ながら、上手くいった方だと思う。みょうじがよく笑うから、こちらも自然と笑顔になる。朝から良い気分だ。
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