目線

きっと、夢だ。そうに違いない。私は目を見開いたまま頬をつねる。痛い。夢じゃない。心臓の音がうるさい。どくんどくんと波打っている。視界は見えているようで見えていない。見る必要が無い。うまく働かない頭でそう判断する。

「なまえ?」

名前を呼ばれた。私の身長より頭一つ……いや、二つ分くらいだろうか。背の高い人物が目の前に立っている。名前はベルトルト・フーバー。いつもライナーと一緒にいる。一緒にいすぎだと思う。

思えば、訓練兵として宿舎で寝泊まりするようになってから、気付けば目で追っていた。単に背が高いからかもしれない。それでも、私は飽きることなくその姿を追いかけた。ミカサに心配されながら、サシャと芋を食べながら、ジャンと笑いあいながら、追いかけた。穴があくかと思う程だ。

幸い、周りには誰も気付かれなかった。元から気付かれないように行っている行為だったので、あまり心配はいらなかった。それでも万一ということがあるので、用心した。ベルトルトは私の視線に気付くことなくライナーと話していて、形のいい丸い瞳が弧を描いていた。





夜になった。就寝時間が近づいてきたけれど、目が冴えていて寝付けそうにない。少し散歩をしようと外に出たら、後ろからベルトルトも歩いてきた。向こうは私に気付くと、笑顔で近付いてくる。近くで見るベルトルトは大きくて、顔を少し上に上げなければならなかった。

「ちょっと、寝れそうになくてさ」
「うん。私も」
「なまえも?」

それじゃあ僕と一緒だね、と笑う顔がとても綺麗で、夜だというのに光り輝くように見えて、私は遂に頭が可笑しくなってしまったのかと錯覚する。
きっと、夢だ。そうに違いない。私は目を見開いたまま頬をつねる。痛い。夢じゃない。心臓の音がうるさい。どくんどくんと波打っている。視界は見えているようで見えていない。見る必要が無い。うまく働かない頭でそう判断する。

「なまえ?」

名前を呼ばれた。そして、ハッと気付く。
そうか、これが恋をするという事なのか。
疑問を浮かべたまま訝しげな顔をするベルトルトの背後で、就寝の合図が聞こえてくる。

「ベルトルト、もう寝ようか」

どこかスッキリした顔の私は、疑問符を頭に携えたまま曖昧に笑うベルトルトを連れて自らの寝床へと急ぐ。
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テーマ「人外ファンタジー」
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