イエローカード

(萱野視点)
 
 
 From 小牧
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 コンビニ
  --end--


 絵文字どころか句読点さえ無いメールの本文にたった一言。これだけで通じてしまうのだから付き合いの長さというものは怖い。
 とっくに日は暮れた今からコンビニへ向かうのは物凄く面倒で、行きたくないという本音としばらく葛藤する。しかし向かわなければメールの主が不機嫌を露に自宅まで騒々しく乗り込んで来るのは目に見えている為に、財布と携帯を履き古したスウェットのポケットに突っ込み渋々サンダルを履いて玄関を出た。
 都会から離れた、むしろ田舎に程近い町の中にあるコンビニなど数件しかなく、検討のつくコンビニへと足を向ける。コンビニに関しての唯一の自慢と言えば、何しろ広い。駐車場もある。都会の狭いコンビニより窮屈さがない。まあ、その程度の自慢だが。
 数分、街頭に照らされた静かな道を静かに歩いて行けばコンビニの明かりが見え、その中にド派手な髪色をした男がレジ横で雑誌を捲っていた。
 コンビニの入店音と共に目立ちすぎる髪色の持ち主が此方に顔を向けると、手にしていた雑誌を乱雑に戻して満面の笑みを携えてやって来る。
 世界中何処を探しても、満面の笑みがここまで悪そうな奴はそう居ないだろう。企んでる、確実に何かを企んでる。
 「なあ、あのさー」
 「深夜に呼び出してんじゃねーよ、何か奢れ」
 「肉まん食いてえんだけどさー。なんか色々買ったら金なくなっちゃって」
 「アー…俺、帰るわ」
 「えー、ちょっと待てって。なあ頼むよ、超オネガイ、一生のお願い、金貸して!」
 「お前何回一生のお願いすんだよ」
 すっかり忘れていた。企みも何もない、ただの阿呆なのだこの男は。可愛くもねえ笑顔で両手合わせて懇願、ぶりっこよろしくたっけえカマ声が店内に響く。それでもなんかうっかりたまに可愛く見えちまう俺はまじ眼科行くべき。だって店員ビビってんのに可愛いって何。
 「五千円の利子付けて返せ」
 「いやん鬼畜!俺のストリップショーで我慢して萱野たん!いや、マイダーリン!」
 「やめろキメェ吐く」
 熱々の肉まんを二つ店員から受け取ってすかさず隣の大型犬に投げる。受け取れなかった場合の責任など取るつもりもなく、半ば腹いせの行動も結局犬には意味をなさず、肉まんはヤツの手中に収まった。
 それからコンビニの駐車場に座り込み、熱い熱いと繰り返しながら肉まんを頬張る。柔らかい生地と熱い具材を咀嚼していると、前方から如何にも遊び人らしい軽そうな女三人組が向かって来た。
 無遠慮にそのさらされた生足を眺めていると、隣に座っていた男が大きな声を上げた。何事かと横に視線を流すと、嫌そうにその中心人物にじと目を向けている横顔が目に入った。
 「俺さーあいつにこの前フラれた」
 …なるほど、くだらん。
 視線を此方に向けぬまま紡がれた呟きはどうでもよく、再度肉まんに集中すべく大口でかじりつく。向こうも気付いたのか此方を見て何か話してる様子だった。するとその中心人物がヒールを鳴らして向かって来る。うわ面倒くせえ。つーか香水くせえ。どこぞのババァか。
 「ちょっとーひさびさじゃーん。てかそっちの人イケメンじゃね?紹介してよ」
 自分がフッた男に対して紹介を求める神経の図太さと特殊メイクばりの厚化粧に尊敬。でも正直女は嫌いじゃねえしセックスできんなら誰でもイイからとりあえずメアド、と携帯を取り出した瞬間、視界がぶれた。
 もう一度、いや何度でも確認しよう。小牧は馬鹿で阿呆なのだ。その後の事やらは全く考えねえ奴で、嫌なことはとにかく嫌。ここまで来たらもう王様なのだコイツは。
 気付いた時には唇と唇がぶっかっていて、目の前には伏せた睫毛が揺れていた。男のくせに睫毛長ェな。…じゃねえ。思考が逸れるほどに驚いて、肉まんはとっくに胃へと直下。下唇を舌先で舐めたり食んだりされると、中々やらしい。えろい。
 女も唖然と凝視する中、しでかした本人だけがしたり顔で離れていった。かと思えば身を寄せて来る。あ、やっぱきめえ。
 「コイツがお前みてーな女を相手にするわけねーだろ。つーか俺のだからやらねーよ」
 …さてはフラれた腹いせに俺を使ったな。まじ殴りてえ。殴りてえけどフラれた憎しみは同じ男として分からなくもないから制裁は後回し。
 「…うわ、きんも…女に相手にされないからってホモとか…かわいそー。行こ行こ」
 言葉を吐き捨てるように去っていった女三人組の姿に仕返しの成功は目に見えて、同時に俺らのホモ説がどっかで流れ始めんのも予想できた。もう、色々と最悪だ。誰も俺の事を知らない土地に逃げてえ。
 「…満足デスカ、小牧サンや」 「男とちゅうしちまったとか俺まじ超きめえ、ホモじゃん!」
 いつから加害者が笑う世の中になったのだろうか。馬鹿なのか能天気なのか、とりあえず肉まんの利子は一万円に値上げ確定。今度こそ遠慮無しに小牧の横腹に拳を入れてやった。
 「痛って、あーもー悪かったって!でもちゅう、上手かったろ」
 「しね」
 「やだつれないわ、ダーリンったら」
 「もうなんか俺がしにたい」
 「でもさーなんか、あの女に腹いせっつーよりか、お前を取られたくなかった気ぃする」
 「…ホモが居るきめえ」
 「ホモにさせた責任取ってちょうだいよダーリン。なんつって、ぶっは、きめえ!」
 つーか、何それ、なんかコイツ可愛いんだけど。何これ、何これ、明日眼科行こう。いや、内科?だって脈拍、が、…いやまさかそんな。
 「なあ、ホモってきめえよな」
 「は、何言ってんのトーゼンじゃん」
 女が好きだ。あの柔らけえ乳も、尻も、体つきも、ふっくらした唇も、白い肌も、全部が好き。だからこんな野郎に鼓動が跳ねるなんて事、は。
 「……お前、利子一万円な」
 「え、やべえ超鬼畜!鬼!変態!」
 「やっぱ二万」
 「…えっ」


なんつーかもう、色々、イエローカード。

 




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