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 人生こんなもんだ、と、思う。
 過ぎ去りし高校時代。夢に向かって大学受験に躍起になる周囲とは違い、特に将来のビジョンもなく。ただ理系科目が得意だという理由でそのまま理系の大学に入って早々、自分に研究職の素質がないことを自覚した。単位のついでに取得しておいた教員免許に救われて高校の非常勤講師として就職したはいいものの、俺に生徒に対する情熱なんてものはなく、待っていたのは代わり映えのない日々だった。
 彼らの人生の主人公は当然彼らで、俺は彼らの人生において脇役でしかない。きらびやかで、はじけるようなまぶしい高校生活の中心はいつだって彼らで、俺はその巣立ちを後ろで見送る。講師として高校に戻って来ようが当然俺にきらきらした青春が再来するわけでもなく、むしろ将来のある彼らと日々を共に過ごすことで、自分が少なからず大人になってしまったという事実をいやでも受け止めざるをえなかった。
 大人になってよかったことは、堂々と煙草と酒が飲めるようになったこと。堂々と風俗に行けるようになったこと。俺にとっては大人という肩書きはその程度のことで、きっとこの先、ゆくゆくは非常勤から副担任、副担任から担任、そして定年退職の後は年金暮らし。正に「テンプレ」の人生を送るのだろう。
 だからと言って今更転職しようとも思わないし、何より転職したい職業もない。これはこれでいいと、どこかで納得してしまっているのだ。俺はこういう代わり映えのない日常から些細な幸せを掬い取って生きる術を知っている。そして、それがとても楽な生き方だということも。
 唯一の目標は、平和で平穏な人生。俺の人生は俺のものだけれど、この人生で自分が主人公になることはないのだろうと思う。常に誰かの人生の脇役、という立ち位置で。俺の中のきらきらはとっくにどこかでなくしてきた。
 一日の終わりに自分を労わりながらビール缶片手に座ったソファで眺めるテレビ画面の向こう、賑やかな芸能人たちは日々見る高校生に少し似てきらきらして映る。彼らにも苦労はあるだろうものの如何せん土俵が違いすぎるために比較さえできない。俺にとっては、少なくとも画面の中ではきらきらしている人種。それだけでしかないのだ。


 春目前。25の冬は、寒い。
 




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