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「目的も果たしたし、そろそろ帰るか?」

 丹波と赤崎が注文した料理は二人の胃袋に全て収まっており、あとはもう帰るばかりだ。赤崎が寺内と世良の方に視線をやれば、世良が携帯を持って席をたつところだった。緊急の電話でも掛かってきたのか。

「……丹さん、もうちょっと待ってもらえます?」

 赤崎は丹波に一言断りを入れると、椅子を引いて立ち上がった。



「こんばんは」

 赤崎が向かった先は寺内の元だった。世良の帰りを待っていた寺内は、いきなり側にやって来た他人に声をかけられて一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐにそれは消える。

「ETUの……」
「赤崎です。寺内さんって、世良さんと友達なんすね」
「そう、だね」

 ほんの少しの躊躇。赤崎はその意味を探ろうと、ただでさえ細い目を更に細める。

「違うっていいたげな口ぶりですけど」
「そういう訳じゃないよ。今のは……意識の問題かな」
「意識?」

 赤崎は聞き返すが、寺内は曖昧に微笑するだけだった。

「……寺内さん」
「なに?」
「世良さんって馬鹿でいつも騒がしくて、俺より年上のくせに落ち着きのない子供なんすよ」

 先輩であるはずの世良に対して酷い言いようの赤崎に、寺内はどう反応を返せばいいのか分からない。寺内が普段の赤崎を知っていれば、いつものことだと笑って流すことが出来ただろう。

「でも、あの人楽天家に見えて実は意外と落ち込みやすいんですよね。一度悩み出すとどんどん落ちていっちゃって」
「へぇ」
「だからあの人を凹ますような事はしないで欲しいんすよ」
「……」
「ここの店選びだって、あの人念入りに下見までしてたんすよ、寺内さんのために」

 だからよろしくお願いします、と最後に言い残して赤崎はその場を去って行く。一人残された寺内は、まるで自分の気持ちを見透かされたようで底冷えする心持ちだった。

 久しぶりに世良に会ってみて、寺内はいつになく気分が高揚している自分に気が付いていた。とどめには、緊張からか頬をほんのり赤らめ、きらきらした瞳で見上げられた時の得も言われぬ感情の高ぶり。最早自分が世良相手にメール友達以上の感情を抱いていることは明白だと、寺内は観念していた。問題はそこからだった。
 素直に世良へ気持ちを打ち明けるべきか否か。そんな、迷う寺内の前に唐突に現れたのが赤崎だった。そしてあの言葉である。寺内は赤崎に、世良との今の関係を壊すなと釘を刺されたようだと思った。


「寺内さん?」

 訝しげに呼ばれ、寺内はハッと顔を上げた。いつの間にか世良が電話を終えて戻ってきていた。

「大丈夫っすか?移動の疲れが残っているんじゃ……」
「そんなことないよ」
「じゃあ、ここの料理が口に合わなかったとか」
「それもないよ。世良君が俺のために一生懸命選んでくれた店だから料理も美味しいし」
「なっ、なんで知ってるんすか!?」

 びっくりした様子の世良を見ていると、寺内の表情にも笑みが戻った。それと共に、彼はあらためて世良が好きだと再認識する。
 このまま今まで通りの関係を保ちながら、世良からのメールを心待ちにする日々を送る。そうすれば世良を不用意に傷付けることもないのだろう。だけども寺内がそんな友達としての関係だけで満足出来るかといえば、答えは否だ。
 それに、寺内は密かに期待を抱いていた。世良が下見までして料理店選びをしてくれたことや、自分と接している時の反応を見ていると、都合がいい考えが過ぎるのだ。それが、寺内が日本代表選手であるが故の憧憬の念から来るものかもしれないという可能性も、捨て切れないところではあるが。

「あのさ、世良君。この後何か予定立ててたりする?」
「え、特にないっすけど」

 寺内はこの店以外にも世良が何かしら計画を立てているのでは、と思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。しかしそれならば寺内にとっては好都合だ。

「なら、この後は俺が泊まっているホテルに来ない? 周りに気兼ねなく二人でゆっくり話したいんだけど」

 寺内の提案に驚きつつも、世良は寮の門限までならと了承する。寺内はこれからのことを思い緊張すると同時に、心の中で赤崎に頭を下げた。



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