───今度東京遠征に行くから、その時会えないかな?
シャワールームから出てきた世良は、チカチカとランプを光らせる携帯に気付いた。
そうして寺内から冒頭のメールを受けとった彼は、驚き過ぎて変な声をあげてしまい、背後で着替えていた赤崎から変な目で見られた。
「なんかあったんすか、世良さん」
「え、いや……ははは」
不審者を見るような目つきで己を見てくる後輩に背を向け、世良は僅かに震える手で返信を打つ。寺内が記しているその日は練習日だが、夕方からなら時間はある。流石に観光などは出来ないだろうが、一緒に夕食をとることは充分可能だ。
メールを返し終えた世良は、なあなあと赤崎に声をかける。
「赤崎さあ、都内でどっか美味い店知らねえ?」
「は? いきなりなんなんすか」
「友達が東京に来んの。で、折角なら美味い店で一緒に食事したいじゃん」
「ふーん」
「出来たら穴場みたいなとこがいいんだけど。周りに顔がばれないような、人が少ないとこ」
寺内が日本代表選手であることを考慮して世良はそう頼む。
「……安心しなよ、世良さんの知名度は俺ほどじゃないし」
しかし赤崎は世良が、自分が顔ばれすることを危惧しているものだと思い切り勘違いしていた。
「そんなんじゃ」
「世ー良っ!」
世良の言葉を遮って彼にタックルしてきたのは、若手とも年齢の垣根関係なしに付き合える丹波だ。
「そういうことならこの丹さんがいい店を紹介してやろう! 可愛い後輩のために!」
「本当っスか!?」
「俺もこの前行ったとこなんだけどさ……」
お役御免となった赤崎は途中だった着替えを再開する。しばらくして後ろから「早速下見に行ってきます!」と世良の声が聞こえたかと思うと、今度は「お疲れ様でした」と元気よく挨拶をしてあっという間に出て行ってしまった。
本当に騒がしい人だなと赤崎が呆れているところに、今度は丹波が声をかけてきた。何故か顔がにやにやしていて、また赤崎は不審者を見るような目になる。丹波はそんなことお構いなしに赤崎の肩を抱いて、ひそひそと話し出した。
「どう思うよ、赤崎君」
「はい?」
「世良だよ世良! 友達と食事するって言ってたけど、絶対相手は彼女だよな、あれ!」
「……まあ、じゃなきゃ下見にまで行ったりなんてしないっスからね」
「だろ〜?」
──というわけだから、張り込みしよっか。
あまりにもさらりと言われたせいで、赤崎は何を言われたのか咄嗟に理解出来なかった。
続