練習後のロッカールームは騒がしい。丹さんが若手みたいにはしゃいでいたり、クロさんがいつものあの調子でスギさんに飲みに行く相談をしていたりするのが主だけど。
そんな中で、俺は着替えるより先に携帯を取り出してメールを確認する。
(……今日も寺内さんからはきてない、か)
仕方ないよな。リーグ戦前半では断トツトップだったガンナーズはここ最近それを脅かされてんだから、練習だって大変だろう。それに寺内さんは日本代表でもあるんだし。うん、忙しくてメールを送る時間もないんだよな。きっとそうだ。
(だけどやっぱり寂しい、かも)
頭では納得しているはずなのに、心は同じように納得してくれない。なんてちぐはぐな状態。
俺からメールすればいいんだろうけど、もしそれが寺内さんにとって重荷や負担になったらどうしようと思ってしまい、つい躊躇ってしまう。今まで色んな人とメールのやり取りをしてはいるけど、そんなことを気にしたことなんてなかったのに。
なんでだろ、と元々良くない頭で考えていた時に電話がかかってきたもんだから、俺は思わず携帯を落としそうになった。
(――寺内さん!?)
電話をかけてきた相手に俺はまた驚いて携帯を落としそうになる。慌ててロッカールームを飛び出して、通話ボタンを押した。
「も、もしもし」
『あ、世良君? いきなり電話して御免。今大丈夫?』
「大丈夫っス! 何かありました?」
寺内さんとは何度もメールしている仲だけど、電話で話したことはこれが初めてだ。何かよっぽどのことでもあったのだろうか。
『あー……いや、そういうわけじゃないよ』
「え?」
『なんて言うか、たまにはメールじゃなくてこうして直に話をしてみたいなって思ってさ。……駄目かな?』
「そんなことないっスよ! その、メールとは違って変に緊張しちゃいますけど、でも寺内さんとこうして話せるのは嬉しいっス」
「うん、俺も同じ」
電話の向こうで寺内さんが笑う気配がして、俺も自然に口元が緩んだ。
俺は嬉しくて、メールに書こうと思っていたとりとめのない話題を尽きるまで話し続けた。
『それじゃ、またメールしますね寺内さん』
「うん、楽しみにしてる。じゃあ、また」
出来る事ならずっと世良君の話しを聞いていたいところだけど、勿論そういう訳にもいかないので、切りのいいところで通話を終了する。
「寺内さん、ロッカールーム施錠されちゃいますよ」
「ああ、悪い」
タイミングを見計らったかのように、通路の角から顔を出した小室から声をかけられた。もしかしたら俺が電話を終えるのを待っていてくれたのかもしれない。
廊下の窓から外を眺めれば、もうすっかり暗くなっていた。慌てて小室の後に続く。
「彼女ですか?」
「え?」
「電話の相手ですよ」
若いだけあって、そういう話題に興味津々らしい。
「まさか。俺今独り身だし」
「じゃあこれから付き合うことになる予定の人とかですか?」
「なんでそう思うんだ?」
「なんでって……寺内さん、凄く幸せそうな雰囲気で話してましたし」
違うんですか? と続けて問われ、俺は曖昧な返答しか出来なかった。
世良君は小柄だけど立派な男で、そしてライバルチームの選手だ。普通なら色恋関係に発展するような仲とは程遠い相手。けど、メールをやり取りする中で彼を可愛いと思わないわけではないことも事実だ。小室が言うように、電話していて充足感を得ていたのも確か。
(――それに何より、これだ)
ちらりと落とした視線の先は手の中の携帯に行き着く。実は今でも待受画面が世良君から送られてきた彼の写真だったりする。多分これって、例えば弟分を可愛がるというような、そういった範疇を越えている……ような気もする。
判別しがたい感情に、もやもやとしたものが募る。
仕事としてじゃなく、プライベートで世良君と会ってみたら分かるのだろうか。
(……確か、一週間後はアウェイでビクトリーと試合だったよな)
次の次の試合遠征は、このぼやけた感情をはっきりさせる、いい機会なのかもしれない。
終