二人の男 | ナノ




 傍目から見ても高級そうなマンションの一角にドリさんの自宅はあった。そこに招かれた俺は今現在、ドリさんが毎夜寝ているであろうベッドの上で、伸ばされたドリさんの両足の間に収まる形で座り込んでいた。それから、ついでに言うと――

「んっ……ふぅ、んんー……」

 ドリさんとキスの真っ最中だったりする。
 ドリさんのキスは、経験をいっぱい積んでいるんだなってのをまざまざと感じさせられるような濃厚さで、経験値なんてたいしてない俺の中に侵入してきては、めちゃくちゃに翻弄しまくる。
 ドリさんの魅力を引き立てるあの髭がチクチクと刺激してくるけど、それさえ今の俺には堪らない興奮材料だ。目を閉じていても分かる、ドリさんとキスしてるって確かな証拠だから。

「……は、ぁっ」

 キスが解かれると、途端に俺の唇はじんじんと疼きを訴えた。それを唇を噛み締めることでやり過ごす。
 ここまで濃いキスをされたら、うたぐり深くなっていた俺にだってドリさんがいい加減な気持ちじゃないことくらい伝わる。でも、あともう少し。俺の中に揺るぎないくらい自信が持てる、あともう一押しが欲しい。

 ふいにドリさんの手が伸びてきて、Tシャツの上から俺の胸に触れてきた。膨らみもない平らなそこを、あの大きな掌が撫でる。性的な意図をもったその手つきに、ただでさえさっきから五月蝿い心音がまたスピードを上げた。

「世良の心臓、どきどきしてるな」

 ドリさんには全て筒抜けみたいだ。そりゃそうだよな。

「……俺にこうされるのは、嫌じゃないか? いくらお前自身が言ったことだからって、無理に――」

「ドリさん」

 ドリさんは俺のことを気遣い、この状況から抜け出すチャンスを作ってくれたようだけど、そんなものは必要ない。

「俺が好きだって証明、してくれないんスか?」

「世良……」

 頼むから後悔してくれるなよ、とドリさんが呟く声が小さく聞こえた。



「世良、膝立ちになってくれるか?」

「は、はい」

 ぎし、とベッドが軋む。ドリさんの肩を掴んで、俺の胸元にあるドリさんの頭を見下ろす。いつも見上げる立場だから、なんだか変な感じだ。
 ドリさんはまた俺の胸元に手を這わせる。まるで何かを探るような動きだ。

「ここかな」

「っ!」

 指先を鉤状に曲げたドリさんはTシャツの上から俺の乳首をかりかりと軽く引っ掻くように刺激してきた。誰かにそんな風に触られたこと今までなかったし、そこを触られて気持ち良いのなんて女の子だけだと思っていたから、快感を得た自分にびっくりしてしまった。
 男女関係なく皆感じるポイントなのかなあと考え事をしていた俺は、今度は同じ場所を摘まれて意識を引き戻される。立ち上がりかけていたそこは、衣服と擦れる感触に一層芯を持ち始めた。だけど慣れてくると、布一枚を隔てての刺激だけじゃやっぱりどこか物足りない。

「ド、ドリさん」

「ん?」

「……直接触って欲しい、っス」

 ドリさんは優しく笑うと、すぐに俺の願いを聞き入れてくれた。

「世良、ちょっと服を持ち上げててくれるか」

 俺は黙って言われた通りにする。服の裾を持ち上げて自分から肌を見せるような格好をとってようやく、自分があられもない状態であることに気付いて死にそうなくらいの恥ずかしさが込み上げてくる。
 でもすぐにそれどころじゃなくなった。

「ひゃっ」

 触られて過敏になっていた乳首にぬるりとしたものが触れる。ドリさんの舌だ。べろりと一舐めされたと思ったら、今度は尖らされた舌先で先端を押し潰される。もう片方は指先でコリコリと弄られて、服越しのものとは段違いの刺激に身体が戦慄く。
 きっとドリさんが片手で俺の腰を支えてくれていなきゃ、とっくに崩れ落ちていただろう。あまりの快感に、持ち上げた服の裾を力一杯握る。きっとすごく皺くちゃになっているだろうけど、生憎それどころではない。

「……っはあ……んッ」

 熱い吐息が漏れ、急速に下半身に熱が集まる。熱をもったそこが、誰の目から見ても分かるくらいカーゴパンツを押し上げて主張していて、更に恥ずかしさが募る。だけど両手は塞がっているから隠しようがない。
 俺がそっちを気にしていることにドリさんは気付いたようで、挑発するかの如く股間部分をつつっと指先で撫で上げた。

「やぁッ、ドリさ……!」

 一番感じる場所へ触れられて腹筋と太股がひくりと震える。顔は見なくても分かるくらい紅潮していて、目は勝手に潤む。

「ここも直に触って欲しい?」

 ドリさんからの問い掛けに、俺は間を置かずにこくこくと頷く。もっともっとと、強い刺激を身体が望んでいた。
 カチャカチャとベルトが外され、焦らすようにゆっくりとジッパーが下ろされる。

「少し濡れてるな」

 下着の上から指先でとんとんと叩かれて、堪らず喘ぎ声が漏れた。

「んぁっ、早くっ、触って……!」

「ん、分かってる。俺の肩に掴まってろ」

 服の裾を離して、目線より下にあるドリさんの肩に腕を絡める。そうしている間に手際よくドリさんは下着ごと俺のカーゴパンツを太股まで下ろした。
 ドリさんは半勃ちになった俺のものに手を伸ばし、手におさめた陰嚢をぐにぐにと揉みしだく。

「あ、あ、ああっ……!」

 待ち望んでいた快楽に、声を抑えることなんてとても出来なかった。半勃ちだったそこは完全に勃ち、先端からじんわりと先走りまで零す。
 自分でする時とは全く違う強烈な快感から、自然と背がしなる。迫り出した俺の胸へドリさんは唇を寄せると、赤く腫れ上がった乳首にちゅう、と吸い付いた。あちこち同時に弄られるもんだから、気持ち良すぎて足がガクガクと震える。

「ドリさっ、もうっ、もう立ってらんな、いっ……」

「ああ」

 俺は膝を折ってぺたんと座り込むと、ドリさんの胸にぎゅうっと抱き着いた。よしよしと撫でられると、はあはあと荒い呼吸が少しだけ落ち着く。だけど下はそうもいかない。あと少し刺激を加えられれば出してしまうところまできている。

「ドリさん、俺もうっ……」

 切羽詰まった俺の声を合図に、愛撫が再開される。

「やっ、あぅ、だめっ、……〜〜っ!」

 根本から先端まで何度も強く擦られ、とどめとばかりに尿道に爪を立てられた俺は堪らず射精していた。ぎゅっと目をつむった瞬間に、涙が滑り落ちる。

「大丈夫か?」

 快楽の余韻で力の入らない俺は、小さく頷く。それから、ドリさんに身体を預けて寄り掛かった。俺の代わりに、ドリさんが俺の下着やらをきちんと穿かせてくれた。

「……ドリさん、ごめんなさい」

「ん?」

「俺、どうしても自分に自信がなくて……ドリさんを試すようなことして」

 信用や信頼されないことの寂しさは、今までの人生で俺だって嫌という程知っていたのに。

「俺も、ドリさんのこと好きです。……ドリさんはまだ、俺のこと……好きでいてくれてるっスか?」

 恐る恐る尋ねれば、顎を持ち上げられて軽くキスされた。

「嫌いになったんだったら、こんなことするはずないだろ?」

「よかったぁ……」

 嬉しくてまたぎゅうっと抱き着く。そこで俺はドリさんの身体の変調に気付いた。さっきの俺みたいにドリさんのもすっかり固くなっていた。

「悪い。誰かさんがあんまり可愛い声で鳴くもんだから、つい」

「ええっ!」

 ドリさんが男の俺の喘ぎ声で欲情してくれたのかと思うと、凄く嬉しかった。
 俺って、愛されてるんだなあ。

「じゃあ、責任もって今度は俺がドリさんを気持ち良くするっス!」

「無理しなくていいんだぞ?」

「そんなことないっスよ!」

 だって俺はドリさんが大好きなんだから!


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