ホイッスルの音がグラウンドに響く。これから15分間休憩ということで、すっかり汗だくの皆は日陰に座り込み水分補給に勤しむ。
「椿、ほら」
日陰でへたりこんでいた俺を見かねたのか、ザキさんから俺用のドリンクボトルを差し出された。
「あ、あざっす!」
「隣いいか?」
「ウス」
ザキさんは腰を下ろすと、水分も取らずに一点を見詰める。その先を辿れば、堺さんに頬っぺたを抓られている世良さんがいた。
いつの頃からかは思い出せないけど、最近世良さんは堺さんに懐いている。しかし二人の仲が良いかと聞かれるとちょっと微妙だ。何故か世良さんは、よく堺さんに怒鳴られていることが多いし。
今のも、きっとまた何か堺さんを怒らせるようなことをしたのかもしれない。
「……あの人には、堺さんくらいの人がついていた方がいいんだろうな」
「え?」
「俺だと言葉がキツ過ぎるから、必要以上にあの人をへこませちまうし」
あの人意外と落ち込みやすいから、とザキさんは続けて呟く。それから俺をちらりと一瞥した。
「かと言ってお前だと、強くでれないからあの人が馬鹿なことしようとしても止めきれない」
ザキさんの視線は再び堺さんと世良さんに向けられる。
「堺さんなら飴と鞭の両方を上手く与えられるから、あの人も必要以上に落ち込まない。そんで、あの人が馬鹿なことに走ろうとすれば叱咤して止められる」
「世良さんにとって一番相性がいいのは堺さんってことっスか」
「理屈的にはな」
熱気が残るフィールドに、一陣の風が吹いた。汗をかいた身体に一瞬の涼しさを運んできてくれる。
「でも、それなら俺らが変わればいいんじゃ……」
「お前、さらっと言ってるけどそれって結構難しいぞ」
「だったら、ザキさんは諦めるんスか?」
「……簡単に諦められるくらいなら、最初から好きになってねえよ」
「……そうですよね」
恋は理屈でするものじゃない。
だからこそ俺達は、こうやってあの人への想いを断ち切れないのだ。
終