夏はいろいろと、めんどくせぇ


暑いし、だるいし、どこに行っても人は多いし

祭りとかも、なんでこうあっついときにやるんだか


そう心の中で愚痴をこぼすも、顔は正直だった





「賑わってるねー。あ、かき氷だ。食べる?」

「んー、おれはいいや」


「じゃあ一つでいいか」そう言って、ななしは屋台の人にかき氷を頼んでいる。その彼女の後ろでおれは口の緩みをごまかそうとしていた


人混みは嫌いだが、今おれはななしと一緒に祭りに来ている



数十分前、「みんなでお祭り、行こうか」と言っておれの家に来たななし。いきなりのことに、おれは黙って頷くことしかできなかった


暑いとかだりぃとかめんどくせぇとか、外に出るのも嫌だったが

そんなもん浴衣姿のななしを見れば一気に吹き飛んだ


気温でうっすら赤く頬を染めるななしがとても可愛らしい

レモンのシロップがかかったかき氷を美味しそうに食べる彼女に、おれは胸を打たれながら歩いていく


「でも、残念だったね。いのちゃんとチョウジくん」

「…………」

「用事があるなんて…」



「………まぁ、そんな気にしても仕方ねぇだろ」

「…そうだね。また来年かな」


いいや、来年も二人っきりだ


口から出そうになった本音を飲み込み、彼女の言葉に首を縦に振った


……言わなくてもわかるだろうが、チョウジたちに用事があるってのはおれのウソだ


浴衣に、いつもと違う髪型。これ見たら独り占めしたいって思うだろ?

本当は外に行かず、閉じ込めておきたかったが…そこは我慢した


この姿のななしを目の前にして二人っきりとか…んなの、手を出さねぇ自信はねぇぞチクショー


今だって

今、だって


………………あ?





「?…シカマルくん、どうかした?」

「……………」

「………おーい?」


固まるおれに、手をパタパタ振るななし。そんな彼女におれはニッコリと笑った


「なぁ、ななし。確かこの後花火だよな」

「え、あぁ、うん」

「おれさ、よく見えるとこ知ってんだけど…」

「ホント!?じゃあ行こうよっ」


パァアと眩しい笑顔を向けてくるななしに、多少申し訳なくなる。食べ物を買い込もうとする彼女の手を引き、人混みから離れていく


「食べ物、いいの?」

「おう」

「でもシカマルくん、何も食べてないよね?」

「大丈夫大丈夫」





祭りに誘ってくれたななしに、嬉しくなった

浴衣姿で笑うにななし、興奮した

そんで、


「おれも、食うから」

「………………かき氷、食べたかったの?」


んーん、もっと旨いもの


祭りで賑わう人の声が遠ざかっていく。花火を楽しみにしていたななしには悪いが、今向かっているところからは花火は一切見えない



だから、人なんて、いない


「ちょっと吸うだけだから、いいよな?」

「あぁ、溶けたかき氷も美味しいよね!」


まだ気付かないななし。おれの意図がわかった瞬間、ななしはどんな反応をするんだろうか


いつもは見えない彼女のうなじに手を添え、軽く撫でた。撫でたそこには、まだ新しい虫刺されの痕が


あ゛ーあ、虫ごときに嫉妬とか





「男ってホント、めんどくせぇなぁ」

「どうしたの、急に」





妬む