へらりと笑うつぼみに泣きそうなった


心配?不安?悲しい?

...まぁその気持ちも否定しないでおく


溜まる涙を堪えるよりも、緩む口元を引き締めることに意識を集中させる



おれに風邪を移すまいと、笑いながら、でも寂しいからと、不安そうに、

窓越しでもいいから傍にいてくれと言うつぼみに、おれの震えは止まらない





おれを弟のように扱うつぼみが、おれを求めるこの瞬間

家族ですら甘えず気づかい、風邪が映るからと近付けないのに





「つぼみ、寂しいか?」


おれの問いかけに一度キョトンとし、そしてそのまま俯き窓に寄りかかった。小さく掠れた声で呟かれた言葉は、窓越しにも関わらずおれの耳にしっかりと届いた


「...寂しい、の、かもねぇ」







......あぁ、あぁ、あぁ!

どうしてそう、つぼみはおれを煽るのが上手なんだよ


荒々しくなる息遣いを抑え込み、ゆっくりと息を吸って静かに吐き出した






風邪を引いたつぼみを、純粋に心配できなくなったのはいつ頃だろうか。遠慮がちに求められるこの瞬間に、気持ちが高ぶるようになったのはついこの間のような気がするし、昔からのような気もする

完全にあがりきった口元を隠すことなく、おれは両手を組んだ








かしゃん、


「、えっ」


俯きながら鍵に指をかけ、そのまま下にさげたつぼみ。音を立てて開いた窓に、開けた本人は驚きいつもより掠れた声をあげるも、つぼみはそのままベッドへと倒れこんだ


おれと一緒に




遠慮なく覆い被さるおれを気にすることなく、自身の右手を見つめながらぱちぱちと瞬きしている


「...あれ?かぎ、あれ?開けちゃった...?」

「開けちゃったなぁ」

「でも私、開けようなんて...」

「やっぱ寂しかったんじゃねーの?」


寂しくて、ダメと分かりながらも

体は我慢出来ずに動いたんじゃね?







なんつって、まぁおれの術のせいなんスけどね


一瞬繋がった、繋げていた互いの影をいつもなら考えずともわかることだが、いまのつぼみは頭が働かないのか「そっかぁ...うん、いやぁ...その通りなんだよ、はは」なんて言い笑った。認めちまうのかよチクショー


熱のせいか、恥ずかしさのせいか、顔を赤らめるつぼみに抑えきれなかった気持ちが涙として溢れ出てくる。それを溢さぬよう目を細めると、つぼみはおれの頬に手を伸ばした







「心配してくれて、ありがとう」


全身が震えた


溢れ落ちた涙と一緒に体もつぼみのもとへ。首元に顔を埋めればつぼみの匂いで肺がいっぱいになった

風邪が移ると言いながらも、震えるおれの背中を叩く最愛の人。そんな彼女にもう抑えることが出来なくなった弧を描く口を、押し付けて隠す




風邪を引くたび、心配になる

ふらふらの様子を見るたび、不安になる

真っ赤な顔を見るたび、胸が締め付けられる

寂しいと甘えてくるたび、喜びがこみ上げてくる



抑えきれないこの高ぶりに気付かないつぼみがおれに触れるたび、笑いが止まらない






…さて、色んなもんが入り混じったこの感情に名前をつけるなら、なんと言ったらいいもんか





(とりあえず、混ざり合いすぎてどす黒くなってることは確かである)



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