「…確か、こっちにっ」


人を避けながら町を駆け抜けていくズンダ。手にはいくらかのお金が握られている

いつもは残らないお釣り、それが残っているということは…これは母から「つぼみちゃんに何か買ってあげなさいよ、バカ息子」というメッセージなのだろう


ふざけんなよババァ

おれはあいつが好きだなんて、言ってねぇだろうが

ふざけんな、ホント



ホント、

ホント、

ホント…!





「なんでおれは…!」


あの女のために、店探してるんだよ!!


「ちくしょう!」と叫びながら、裏道を通り目的地を目指す。度々この町には来るので、どんな店がどこにあるかぐらいはわかる


この道を抜ければ

あれだ、

女が喜びそうなアクセサリーがある、そういう店が……!


自分を気持ちを否定してきた一人の少年が、今、本当の想いへと近づく第一歩を







「へーい」


ガッ!


「ぬおあっ!!?」


阻止された


何かに蹴躓き、ズサァァア!!と豪快に転んだ。全速力で走っていたため、普通に痛い

一体なんなんだよ、うめきながら体を起こそうと腕に力を入れた


そのとき


「まぁまぁ…ゆっくりしてけや、おにー……さんっ!!」


ドスッ!!


「ッ!!!!???」


い゛っ!!?


男にとって、人にとって、生き物にとって攻撃されてはいけない場所に、激痛が走った

あまりの痛さに声も出ない。な、にが、起こった…!?


状況を整理させたくても全て痛みに持っていかれ、頭が働かない。しかしズンダは自分の中で一つの扉が

トラとウマの扉がゆっくりと開いていくのが、わかった





『みーつけ、』

『?』

『たっ!!!!』

『ッ!!?』


そうだ…確か、


『おい』


あんとき、も


『これよりも痛い思いしたくなかったら、二度とつぼみに近付くなよ』

『うっ…ひぐっ…っ?』

『どうしても近付きてぇなら、そうだな…おれに勝ったならいいぜ』


おれは、ケツに…








「なぁ、おにーさん」

「……あ、?」


この激痛の原因であろう人物が、目の前に立った。逆光のため顔がよく見えないが、ズンダは綺麗な弧を描いている相手の口だけは見えた





その瞬間、完全に開かれたトラウマの扉


「お前は…っ!!あのときの、」

「一度だけでも許さねぇってのに、二度までも…」


ズンダの震える声を、静かで、それでいて威圧的な声で遮る


「…つぼみに近付いてんじゃねぇよ、クソが」



いいか、

三度目は、

ねぇからな?



もし、次に

つぼみに

手ぇ出すようなことがあったら……



生きてられると





思 う な よ ?





「…ひ、ぃ……ッ!」

「……そこんとこ、よぉーく覚えとけよ?おにーさん」

「……ッ!、ッ!」


忘れたくても忘れられないだろう、このおぞましい殺気は

ズンダは目の前の恐怖と過去の恐怖が重なり、震えながら涙を流した





一度目は、背後からのカンチョー

二度目は、顔面からの転倒、とこれまた強烈なカンチョー


じゃあ、三度目は…?





ズンダの怯えように満足したのか、笑いを溢しながらその場を去っていく影

彼に新たなトラウマが植え付けられたことは、言うまでもなかった





(…いや、ここは三度目が起こる前にやつの息の根を止めるのも、一つの手か…?)



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