「予選突破おめでとう!」


めどくさいだの何だの言ってるお前だったが、やってくれるって信じてたさ

さて、一ヶ月後の本選に向けてがんばれよ!


「おー、がんばるがんばる」

「うんうん、その意気だ





…………って、なるかお前ええええ!!」

「ぅおっ!?」


素早く印を組み、馬鹿息子の動きを封じる


今までもふざけるなと言いたくなる行動をしてきたシカマルだったが、今回の行動はさすがに許せなかった


「親父てめぇ、息子に術掛けるやつがいるか…!?」

「じゃあ聞くが、親父の頬を全力で殴る馬鹿息子はいるのか?」

「結構いるんじゃね?」

「じゃあこっちもいるんじゃねーの?」


ピキッ、シカマルの額に青筋が浮かぶ。これにいつもなら大人しくなるシカクだが、今日の彼は違う


予選を突破したのは息子だけではない。数名の予選通過をした強者たちと、一ヶ月後の本選で戦うのだ。それなのに、それなのに…!





「なんだてめぇのその荷物は!!お泊まりセット一式は一体何なんだよ!!」

「え?あぁ、ちょっとつぼみと旅行に行ってくるわー」

「行くなよ!!!」


相当楽しみなのか、にぱー、と笑顔になるシカマル。そんな息子に親父はブチギレした。シカマルの動きを封じている影に、少しの力を入れる


「いてててて、ちょ、おいっ!殺す気か!」

「手加減しとるわ!このド阿呆!」

「つーかいい加減離せ!」

「離しません!」


修行する、って言うまで絶対離しません!


必死でもがく息子に、ちょっとした優越感。あぁ、おれまだ父親としてやっていけるわ。なんて、少し悲しくなることを思ってしまった


とりあえず、身動きは封じてやった

あとは説得のみだな


ある日の奈良家玄関前、シカクのS級任務が開始された。よし、がんばるんだおれ!





「いいか、シカマル。確かにお前は強い。だがな、それがこの本選で通用するとは限らんぞ」

「あーあ…つぼみまだ仕事に行ってねぇといいなぁ…」


お願い!パパの話聞いて!とりあえず聞いて!


任務開始数秒でシカクの心にヒビが入った。しかしここは木ノ葉を代表する忍の一人、なんとか持ちこたえる


「…ゴホンッ、あー、うん、あのねシカマルくん」

「…………あ゛?」


どこのヤーさんだよ


「…………い、今お前に掛かってるこの術、知らねぇよな?見たことねぇよな?」

「あー、まぁ、そうだけど」

「な、なら覚えようぜ!そんで本選に向けて特訓すんぞ?なっ?なっ!?」

「………んー、」


………おっ?おぉ!?ちょっと迷ってる!?

よし!あともう一押しだっ!


「本選でかっこよく勝てたら、つぼみちゃんも惚れたりするんじゃねぇか!?」


ここで彼女の名前を出すのは少々汚い気もしたが、こうでもしないとこいつは動かない

この馬鹿息子の原動力は、彼女なのだ


シカクの言葉にシカマルは小さく彼女の名を呟き、考える。数秒の沈黙のあと、シカマルは父親に視線を向けた


「なぁ、親父。この術何て言うんだ?」

「え?影首縛りの術って言うやつだが、」

「ほー、影首縛りの術ねぇ」


影真似の術と違って、術者と同じ動きはしねぇのか


へー、

ほー、

ふーん、


いいな、その術


「だ、だろ!?それじゃあ早速、」

「興奮、するな」

「あぁ!早速興奮しようじゃ、…………




…………………ぇ?」


今、なんて言った?


予想してもなかった言葉に、思考が停止したシカク。それでも術が緩まないところは、流石と言えるだろう。……そう、手加減してるとは言え、術はまったく解けていなかっったのだ


なのに、ブチリと切れた黒い線


ブチリと切れ……え?切れ、ぅえぇ!!?


今まで様々な困難をその頭脳で乗り越えてきたシカクだったが、生まれて初めてのこの状況に、口をあんぐりと開けることしか出来なかった


おいおいおいおい、ウソだろ!?

どうやったら影が切れるんだよ!?つーかこんな風に切れるんですか、この影!!?


力で父親の術をねじ伏せたシカマルは腕をぐるぐる回し、ゆっくりと印を組む。すると形を変え動き出した自身の影が、自宅の戸を開けた


「…うん、便利だなこりゃ」

「…………」





この本選で、お前の力が通用するとは限らない。そう、おれはシカマルに言った。修行をしろと、確かに言った

だがよ


「影首縛り、縛り……ふーん、縛り、かぁ」


荷物を背負い、己の足元にある影を楽しそうに眺める息子に、嫌な予感しかしない。もしかしなくても、おれは余計な術を教えてしまったようだ。てか、見ただけで一発マスターとか、どんだけセンスあるんだよ


「…親父はさぁ、」





おれに修行しろって言ったけどよ、

今でもそう思う?


「…………思イマセン」


撤回します。むしろこの一カ月の間忍者から離れて、ブランク作ってきてください。それぐらいしないと、対戦相手が死んでしまう、シカクは本気でそう思った


「んじゃあ、つぼみを縛り…んん゛!!…つぼみと旅行に、ちょっくら行ってくるわー」


笑顔で手を振る息子に、疲れ切った笑みを返すシカク。久々の任務失敗に落ち込む彼は、縁側にでも行こう、そして寝よう、そう誓い足を前に進めた


三歩進んだところで、ハッと気付く





『んじゃあ、つぼみを縛り…んん゛!!…つぼみと旅行に、ちょっくら行ってくるわー』


……………今、あいつ


『んじゃあ、つぼみを』


………あいつ、


『縛り…』


…………しば、り?


顔を真っ青にさせたシカクの、脳裏に浮かんだのは


『興奮、するな』


一見純粋な、しかしよく見るとゾッとする、息子の満面の

笑み





「………ーッ!!」


つぼみちゃんが危なぁぁぁぁあい!!!!


シカクの声にならない悲鳴が辺りに響いた


息子の持つ彼女への想いは知っている。その想いがここ数年で更に歪んできているのも、よく知っている。そしてこのあと彼女に振りかかるであろう出来事の恐ろしさも、大変よく知っている


やはりおれは、教えてはいけない術を教えてしまったようだ。すまない、サン。本当にすまない、つぼみちゃん!!





(おれの幸せ計画開始!え?中忍試験?なにそれ、知らない)



戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -