「よ、よし、行くぞ…!!」

「うん」


手渡されたお金を懐に仕舞い、歩き出す。そんなおれの後ろをゆっくり付いてくるのは、この前から店で働き始めた草花つぼみ

おれはいつもより早い鼓動を落ち着かせるために、何度も何度も胸を叩く。いや、緊張とかしてねぇから。こんな女がいようがいなかろうが何も問題ねぇから!


つーかおれの心臓もいつも通りなんで!常時この早さなんでぇー!





「興奮して、つぼみちゃん襲ったりしちゃあダメだかんねぇー!」


ズサァァア!!



「……お、おばさん」

「あらまぁ、冗談だってのに。エロ息子だねぇ!」



「………………」


クソババァァァア!!





盛大に転んだ少年の名は甘野ズンダ。彼はつぼみが働いている店の一人息子だ

つい最近、強面のおっさんに殴られたらしく、まだ頬が若干腫れている


そして今、顔面擦り傷という新たな怪我を作った彼は、自分の母に怒鳴りながらその場をがに股で立ち去っていった


「あ、ちょ、ズンダくん…おばさん、それでは行って来ますっ!」

「はいよ、うちの馬鹿息子には気付けなさいねー」

「もう黙れよババァちくしょー!」

「あ、あはは…」


相変わらずの親子だなぁ。つぼみは見慣れてきた二人のやり取りに頬を引きつらせる。そしてドンドン小さくなっていく彼の背中を追いかけていった



甘味屋の従業員である二人。彼らの本日の仕事はどうやら


「隣町までは少し遠いけど、買うものは少ないみたいだね」

「お、おぉ…さっさと済ませる、ぞ!」

「うん」


買い出し、のようだ


先を行くズンダの横に並び、つぼみは渡された買い物リストを確かめていく。そんな彼女の表情をチラリと横目で見る彼は、どんなに本人が否定しようとも


「………んっ?どうかした?」

「!!!……っなんでもねぇ!ちんたらしてっと置いてくぞ!!」

「えーと、顔赤いようだけど…」

「気のせいじゃねぇの!!?」

「あ、そうですか」


どんなに否定しようとも、周りには丸わかりである

どんなに嘘をついても顔に出てしまうタイプのようだ


また一歩先に行ってしまった彼の後ろ姿を見て、笑いを溢すつぼみ。「…かわいいなぁ」本人に聞こえないぐらい小さな声で呟いた


こういうのって何て言うんだろう

……ツンデレ?


まぁ、何にせよ





「青春してるねぇ…」

「おい!本当に置いてくぞ!」

「え、あっ!ごめんごめん!待ってよー!」


彼の好意を理解しても、中身の年齢が年齢な彼女。


小さい子から好かれるのは、嬉しいなぁ


ぐらいしか思っていない。こんなにも態度で表れているのに、かわいそうなズンダである








「……………ほう、」


そしてもう一人、彼と同じように好意を受け取ってもらえていない、かわいそうな男がここに


「どうやらまだ駆除が終わってなかったみてぇだなぁ…」


いやぁ、悪かったよ

次はしっかり


息の根、止めてやるさ





「く、くく…」

「止めよう?な、お願いだから止めよう?」

「二人っきりデートとか、」


そんなの

させるわけ

ねぇーし


「なぁ?」

「「もちろん」」


怪しく笑う三つの影。今まさに、ズンダの未来が決定された





すまん少年…、また君を守ることができなかった


ホロリと涙を流しながら、一人の上忍は静かに両手を合わせた



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