いっちに、いっちに。短い手足を一生懸命動かす。体力を付けるため私、つぼみはランニングをしています


何のために?

シカマルくんを抱っこするため!



……に、やっていたものでした。初めは


しかしいざ抱っこをすれば口を歪めて「やだ」と言われてしまった。あのときのショックはもう…ね、うん

でもときどき抱っこさせてくれるので、完全にこの体力作りが無駄、というわけではなかった

なのでたまにこうして走っている


とてとて、効果音を付けるならこうだろう。小さな体ではこの速度が限界のようだ。うん、今までやっといてあれだけど…腕立てとか腹筋の方がよかったかもね…


折り返し地点である公園にたどり着き「はふっ、」と空気を吐き出し深呼吸。さぁて、あと半分がんばろうか私





「出てけよー!」

「お前が来たら遊べねぇだろっ」



「…………ん?」


息を調えていると公園の方から大きな声が聞こえてきた。それは楽しそうな声、ではなく、子供同士の喧嘩らしい


うむむ…、こういうのは大人が絡んじゃ…あ、私今子供だ

でもいきなり第三者が出てきていいのかな


仲裁に入るべきかどうか戸惑いながら、公園内のやり取りを見守る。しかしよく見てみると喧嘩ではなかった


一人の男の子を、同い年くらいの子達数人が囲んでいた


………って、ふおぉぉお!!?まさかのいじめ現場ですか!?

え、え、ちょ、え…ど、どどどど、どうしよう!見守ってる場合なんかじゃないぞこれ!


プチパニックを起こしたつぼみは入口前であわあわとする

そんな彼女に気付くことなく、数人の子供たちは一人の男の子に手を出した


彼らが握っているのは砂場で使うはずのシャベル。子供の遊具なので素材はプラスチックだろう


しかし、それでも痛いものは痛い。絶対に痛い








「ぁ……あー!!タロウくん見付けたぞー!!」

「「「!!」」」



「……ッう、わ!?」


いや、誰だよタロウって


自分で自分にツッコミを入れながら、泣いている男の子の元へと走る。そして、その男の子を抱えた私はそのまま



ダッシュした


走り込みしておいてよかった。体力作りしておいて、本当によかった


見てられなくなったつぼみが起こした行動、それは強引にこの子を連れ出すこと

これで彼女の姿が大人だったら誘拐と疑われても文句は言えないだろう。でも今は子供だから大丈夫、絶対大丈夫よつぼみ!


いくら彼女が体力作りをしていても、まだこの体で誰かを抱えたまま走り続けることは無理だ。公園から少し離れたところで限界が来たつぼみは、男の子を下ろし座り込む


「だ、誰だよ…おれの名前タロウじゃねぇぞ!」


あ、うん。それは、なんというか…その場の、ノリですんで、気に、しないでね


いろいろと、話したいけど


「ちょ…ま、ってね」


おねーさん、今死にそうだわ


ゼーハー、肩で呼吸をするつぼみ。息絶え絶えの彼女に、連れてこられた男の子は戸惑いながらも背中を擦ってあげた。うん、ぼくありがとうね


ようやく呼吸も落ち着いてきた頃、最後に大きく息を吸い、つぼみは男の子と向き合った


「んーと、君を連れてきたのは…」

「誘拐か!?」

「違う違う、違う違う違う…」

「誘拐だってばよ!!」

「違うんだよぉー!!」


あなたに「誘拐だ!」って言われたら、本当に誘拐になっちゃうでしょー!?


つぼみを誘拐犯と決めつけた男の子はギャンギャンと泣き叫ぶ。ぼく、お姉さんも泣きたいよ

ははは、と思わず笑いをこぼし項垂れた。これはもう、ここにいない方がいいかもしれない、つぼみは男の子の頭を軽く撫でニコリと笑った


「うん、こんなところまで連れてきちゃってごめんね」

「…ぇ、」

「ここから、お家まで帰れる?大丈夫?」


つぼみの言葉に、男の子はゆっくりと頷いた


「それならよかった!じゃあ気を付けて帰りなよ」

「…あ、」


ばいばい、そう手を振り男の子と別れた。途中振り返って「おでこの怪我、お母さんに診てもらいなよー!」と声をかけておいた


本当は手当てとかしてあげたかったけど、それはさすがにお節介過ぎるよね…

まぁ、血も出てなかったし、そこまで心配するような怪我じゃないか


つぼみはいつもの走り込みコースから外れてしまっている場所から、のんびり帰ることにした。もう走る元気はございませんっ



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