つぼみを肩に乗せ、サンはゆっくり歩いて帰る。自宅の妻が心配だったが、ここは娘と話をしなくてはならない


「とーしゃ、私嫌われちゃったのかなぁ」


ぽつりと呟かれた言葉。そんなことはない、といつものように笑ってやった


「つぼみ、これはただ嫉妬なんだ」

「しっと?」


あぁ、そうだとも。まだ子供のこの子に通じるかわからなかったが、おれとオハナの子だから大丈夫だろう。サンはそのまま笑顔で言葉を続けた


「シカマルくんはなぁ、つぼみが大好きだから」

「しょれは…、」


よくわかってる、けど

でも、だからこそ今回のことはショックだったなー


「つぼみは嫌いか?」

「え?」

「枕でぶたれたけど、シカマルくんのこと嫌いになったか?」


いつまでも絶えない父の笑顔を上から眺め、首を横に振る。こんなことで、彼を嫌いになるはずがない

そんなつぼみに「なら大丈夫!」とサンは声をあげて笑い、娘を高く持ち上げた。更に高くなった視線に彼女は慌てる


「明日にはまた仲良く遊べるさ!」



だから今は笑って帰ろう!

母さんと、弟に笑顔で「ただいま!」って、言おうな!


聞き慣れた笑い声、この声にはいつも笑いを誘われる。つぼみは自分の頬が緩むのがわかった

この人と出会って四年と少し、精神年齢はきっと同い年だがつぼみは彼を父と認めている


抜けてはいるが、尊敬もできるいい人なんだ、この人は


地面に下ろされたつぼみは自分の身長と同じぐらいの高さにある彼の大きな手を、ぎゅうっと握った





「今日のご飯はなんだろうなぁ」

「お米がいい」

「そうか!つぼみは和食が好きだな!」

「うん、日本人だし」

「にほ…?」


おっと、いかん。つい口が


どうもこの両親といると気が緩んでしかたがない。まぁ、細かいことは気にしないタイプの人達だから助かってるけどね

現に今だって「つぼみは父さんより物知りだな!」なんて言っている


そうこうしている間に帰ってきた二人。サンは「ただいまぁ!」と元気な声をあげて玄関の戸を開けた


そしていつものように母のもとに走っていく、かと思ったらピタリと立ち止まった


「とーしゃ?」


どうかしたの?首を傾けつぼみは父を見上げた

サンはそんな娘の頭に手を乗せニカッと眩しい笑顔を向けた


「よかったな、つぼみ!」

「え?」

「今日のうちに仲直りできるぞっ!」


突然何を言い出すのか、抱いた疑問を口にする前にドンッと背中に衝撃が来た。咄嗟にサンが支えてくれたので彼女が倒れることはなかったが


父に寄りかかりながら、背中にいる衝撃の原因に振り向いた





「すまねぇな、あのあと更に泣き出しちまって…謝りにいくっつって聞かなくてよ」

「平気ですよ。つぼみも仲直りしたかったもんなぁ!」



「えー、と」

「………ぐすっ」


まだこの展開についていけていないつぼみは戸惑いながらも、抱き付いてきた人物と向き合う。顔を会わせる前にまた抱き付かれてしまったが


とりあえず何か話しかけなければ、しかしもう触れても大丈夫なのだろうか


つぼみは両手を軽く上げたまま固まってしまった

そんな彼女に抱き付いている男の子、シカマルはぶわっと涙をこぼしながらつぼみに回した腕に力を込めた。シカマルくん、お姉さん口から何か出そうだよ


「…つぼみっ」

「…なあに?」

「ごめ、なっ…さいぃぃ…!!!」


うわあああん!


本日二度目ましての大号泣。つぼみは上げていた手を恐る恐る彼の頭に下ろし、優しく撫でた

その間にもシカマルの涙はどんどん増えていく

泣き叫びながらなのでよく聞き取れなかったが、つぼみはその言葉にくすり、と笑みをこぼした





ごめんなさい、

手を叩いて、ごめんなさい。枕ぶつけて、ごめんなさい。ばかって言って、ごめんなさい


いっぱい謝るから、だから許して


お願い、だから


「嫌い、にっならない、で…!」


そう言って咳き込んでしまった彼の背中を擦る。こんなに泣いている彼の前で笑うのは失礼かもしれないが、つぼみは笑顔が抑えきれなかった


いやぁ、私好かれてるな

どうしよ、めちゃくちゃ嬉しい


私たちが帰ったあと、直ぐに追いかけてくれたのだろう。後ろにいるシカクさんと一緒に


つぼみはシカマルの涙を拭きながら、彼と視線を合わせるために腰を屈めた


「シカマルくん私ね、やくしょく、しゅる」

「やく、そく?」

「ん!」


例えシカマルくんが私を嫌いになっても、私は嫌いにならないよ。むしろ嫌って言われてもずっと好きでいてやるんだから!……ん?これって約束でいいのかな?


…………まぁ、いいか


「やくしょく」そう言って小指を差し出せば、彼はそれをじいっと見つめた。数秒見つめたあと、シカマルはぺいっとつぼみの手を押し退けた。シカマルくん、お姉さんの心はズタボロだよ


「おれだってつぼみが好き。絶対嫌いならないもん…」

「!」


心、復活!!


垂れる鼻水をすすりながら服を掴むシカマルを抱き締めたくなったつぼみ。いったん深呼吸をし、ぷにぷにの頬っぺたに手を添えた


「私もシカマルくんしゅきよ、ずぅっと」

「おれ、も!」

「それじゃあ私たち」





両想いだねぇ


つぼみが言った何気ない一言。もちろん精神年齢成人越えの彼女は、小さい子供をあやすノリで言った言葉だ

しかしシカマルは違う


「…ッ!ッッ…ッ!」

「?」


自分から抱き締めていた手を今度は力いっぱい伸ばす。いきなり暴れだしたシカマルに対処できなかったつぼみは簡単に彼を離した


「え?」

「……ッま、た」

「…えぇ?」



「また、あしたっ!!」


いきなり抱きついてきて、いきなり帰っていくシカマル


最近の子供についていけないよ


は、はは、と乾いた笑みをこぼしつぼみは固まった





そんな娘の姿を見て、ニカッと笑う男が一人


「ほら、シカマルくんも男ですよ!いやぁ、おれの息子もあれぐらいいい男になって欲しいなぁ!!」

「…………あぁ、」

「…………シカクさん?なんで泣いて、」

「……いや、」


おれが連れてきてやったのに、あのやろう

父親置いて帰りやがったぞ





「りょ、おもい…つぼみと、りょーおもい…!」

上忍もビックリの速度で里を駆け抜ける、顔を真っ赤にさせた二歳児

次の日、草花家の前にたくさんの花を抱えたシカマルがいたらしい


「両想い、だと、結婚できるって聞いた!」

「………うん?」





(ていうかシカマルくん、そのお花はどこから持ってきたの?)



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