いや、無理だって


アスマは道の端でタバコを吸いながらフッと笑った。あぁ、これがおれの人生、最期の一本か…


つぼみが働いている店にダッシュで行くか?いや、一分じゃ無理。つーかもう一分経ってるだろ、これ。確実に殺られるだろ、おれ


予選で戦うところを見せてもらったが、あいつの殺気は半端なかった。なぁ、なんでお前、まだ下忍なの?

ていうか、忍なの?


音忍の女相手にジャーマンスープレックスを決めた瞬間、アスマは目を擦っていた。これは夢なのか?と何度も擦っていた


『へっ、わりぃな。女相手とか言ってる場合じゃねぇんだ』


だからってジャーマンはないだろう、スープレックスはないだろう


あのときいろいろと言いたかったが、きっとつぼみに会えなくてムシャクシャしてたんだな、と無理矢理納得させた。横でカカシが何か言いたそうだったが、全力で無視をした





いや、実際はつぼみに応援されたから頑張ったらしいが…もう少し忍らしい勝ち方をしてくれや





………………って、そうだ。つぼみだよ、つぼみ!


現実逃避のあまり、先日の試合を思い返してしまった。今は彼女を見つけないと、でも例え見つけても殺られる。マジ一分とか不可能です


アスマは鳥になって、どこか遠くへ行きたい気分になった





そんな項垂れる彼を見付けたのは


「あ、やっと見付けましたよー」

「!!!」


こ、この声は…!













「先生遅いわね」

「だな。…お、また一分たったな。チョウジ、追加していいぞ」

「すいませーん!特上カルビ一皿追加で!」


一分で、シカマルがそう言ったのに彼らの担当上忍は、まだ帰ってこない。その間にもテーブルにどんどん肉が追加されていく

原因は約束の時間が過ぎる度に、三人が注文しているせいだ。一分越える度に一皿、今チョウジが頼んだのは十七皿目である


一分ごとに追加注文をする客に、店員は戸惑っていた





「すいません!!!今の注文はなしの方向で!!!」



「あ、帰ってきた」

「おっせぇ」

「えー、注文取り消すの?」


そんな店員を止めたのは、顔を真っ青にさせ戻ってきたアスマ。テーブルの上にある皿の枚数を見て、一瞬彼の意識が遠退いた。こいつら、悪魔の子だ

伝票を勇気を振り絞って見た彼の、声にならない悲鳴が上がる


そんなアスマを押し退け、三人は体を乗り出した


「つぼみさんはどこなのっ?」


入り口の方に視線を向ける三人。いのの言葉にアスマは体をビクつかせ、「ぁー、」と言葉を濁した





「………まさか、いねぇなんて、」

「いや!見つけた!連れてきた!呼んできたんだ!!」


でも、よ








「あ、いたいたー。みんな試験お疲れ様ー」


聞き間違えるはずなどない、彼女の声に三人が立ち上がった。我先にと飛び付こうとするも、つぼみの姿を視界にいれた瞬間、三人の動きが止まる

つぼみはアスマに「置いてかないでくださいよー」と言いながら、みんなの目の前で歩みを止めた





「みんな、おかえりなさい」

「………つぼみ、さん?」

「無事でお姉さん安心したよ。大した怪我もないみたいだし」

「えー、と…」

「うんうん、元気でなによりだ!」

「……つぼみ、」









「…って、あ!いのちゃんどうして髪短いの!?」

「「そういうつぼみさんもなんで短いの!?」」

「え?」


いのとチョウジの綺麗なハモりにつぼみは首を傾げた。そして皆の反応の意味を理解した彼女は「あー、これ?」と言い、自分の頭に触る


「うん、いろいろあって切っちゃった」


あははー、と笑うつぼみ。そのあと「…いろいろ、だと?」と低い声が発せられたが、彼女には届かなかった。直ぐそばで、伝票片手に泣くアスマの耳にのみ届いたようだが

しかし彼はシカトをした。そのあとピシッとシカマルの持つコップにヒビが入っていたが、全てシカトした





…つぼみが全てを話したとき、

木ノ葉の里は終わるかもしれない


アスマの脳内では先程の彼女の話、これから鬼と化すであろうちょんまげの姿、そして支払いの三つのことでいっぱいだった



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