その呟きが、つぼみに届いていたとは シカマルは思ってもいなかった 「………私も寂しかったよ」 ぶっふー 「ぬぉわ!またかよ!?」 今度は汁とワカメが宙を舞った。もちろん着地先はアスマである 「いい加減にしろ!」と怒鳴るアスマ。うっせぇ、今それどころじゃねぇんだよ おいつぼみ、今なんて言った?寂しかった?誰が? おれと、誰が寂しかったって? 驚き、口の端に付いているワカメに構っているヒマもない。目を丸くし見つめていると、つぼみは眉毛を下げて笑った 「昔からずっと一緒だったのに…いつの間にか男の人になってて驚いちゃった」 それってどういう… つーか、なんだこの嬉しい急展開 夢だったらブッ飛ばすぞ。アスマを 背筋がゾクッとしたアスマ。とても理不尽である 「ふふ、いつまでも弟だと思っててごめんよー」 「………ッ!!」 あつい、 顔が、体があっちぃ これ、夢じゃねぇや 心臓もばくばく言ってやがる。あぁ、うるせぇ。つぼみの声が聞こえねぇじゃねぇか馬鹿野郎 目の前にいるつぼみの笑顔がいつもよりキレイに見える。告白って、普通男がするもんじゃね?女にさせるとかマジだせぇ でも、つぼみの口から つぼみの声で 『好き』 って、聞きてぇ 口内の水分がなくなり、今すぐにでも水をがぶ飲みしたい。そんな気持ちを抑え、彼女の言葉を待つ 「でも、やっぱ秘密にされて寂しかったなぁ まったく、いつの間にあんな美人な彼女さん見付けたの?」 お姉さん、恋人いないのに。先越されちゃったよ 「………………は?」 シカマルとアスマの動きが止まった。全身が硬直した そんな二人に気づかないつぼみは、そのまま言葉を続ける 「ふふふ、ごまかしたってダメなんだから。この前二人仲良く歩いてるとこ見たよぉ」 ごまか…え? 仲良く……え? 「いつまで経ってもお姉さん離れ出来なくて焦ってたけど、これで安心だね」 「あ、今度彼女さん、しっかり紹介してね」と変わらず輝かしい笑顔を向けるつぼみ。表情は見えないが、アスマはシカマルのライフがゴリゴリと削られていると理解 つぼみにどんな彼女だったか静かに尋ねる 「どんなって、金髪の……あ!確かテマリさんだったよね?」 「つぼみストップ!」 やっぱこれ以上喋ってくれるな…!アスマは自分のことでもないのに胸が痛くなった。ドンマイすら言えねぇ 嫉妬もなにもなく、本当に祝福をしているその笑顔がシカマルを追い詰めているのだ アスマは思わず涙した。おれも紅に言われたら立ち直れない 動かない幼なじみに、涙を流す先生。異様な光景につぼみは後ずさった。なんかマズイこと言ったかなぁ… うん、ここは逃げよう。そうしよう 「あ、あー…私まだ仕事があるんで失礼します」 「あ、ちょ…!」 ちょっと待て、そう口にしたときにはもう彼女の姿はなかった。しまった、逃げられた ピクリとも動かない部下に彼は「生きてるか?」と恐る恐る声をかける 「…………………」 返事がない、ただの屍ようだ。いや、屍だ いつものように変態丸出しで暴走してくれた方がまだ対処できる。つぼみのちくしょうめ そう、アスマが愚痴をこぼしたそのとき、ゆっくりとシカマルが動いた つぼみがいなくなって三分経った今、ゆっくりと手を伸ばし 何かを掴むよう、手をぐっぱぐっぱと握って開いて そうして、ゆっくりとアスマの方を振り向いた アスマ曰く、そこには目元をキラリと光らせ微かに笑うシカマルがいたらしい 声をかけるのを戸惑うよりも先に、シカマルの体がぐらりと傾く。そのまま彼の体は重力に逆らうことなく床に倒れた。って、 「し、シカマルー!!!!」 今回の中忍選抜試験の試験官の一人、奈良シカマルは 己の担当上忍と昼食をとっている途中倒れ、病院に運ばれた 「…………今回ばかりは、同情するぜ」 「……なんも言わねぇで下さい」 「ちなみに診断の結果、ストレスが原因だとよ…」 「そッスか」 (やっぱり、夢がよかった……ぁ、やべ、泣きそう) |