「お、つぼみじゃねぇか」 「あ、どうもこんにちは」 シカマルを見送ったその日の午後、仕事を終えたつぼみが歩いていると、途中アスマと出会った。いつも彼らがお世話になってます 親しげに年下の女の子と話す友を見て横にいた忍、はたけカカシは眉をひそめる 「…アスマ、お前……犯罪だぞ」 「はっはっは、カカシてめぇ、ぶっ飛ばすぞー」 仮にそうだとしたらおれはもうこの世にいない。今試験の真っ最中であろう部下を思い浮かべながら、アスマはカカシの頭を叩いた 「へぇ、この娘があのつぼみちゃんねぇ…」 「あの、ってなんですか……」 忍でもなんでもない私になにか噂が、頬を引くつかせながらつぼみは初対面の男性を見上げる 顔の半分以上が隠されている男、とても怪しいがアスマと知り合いなら大丈夫だろう。そう思い、道端で立ち話をする。仕事終わりでよかった 「んー…いやぁ、ナルトがときどき話してたから」 彼か、情報源は しかし悪い噂ではないらしい。カカシがニコッと笑いながら「優しい姉ちゃんだ、って騒いでるよ」と言う。嬉しい、けど恥ずかしい 頬を赤らめ、うつむき照れるつぼみ。その横でアスマが無表情でタバコを吸っていた あー、うんうん。おれのところも騒いでる騒いでる いや、騒いでるっていうか 暴れてるな 「どうかしたの、アスマ」そう声をかけたかったカカシだったが、初めてみるその表情に、どうしても声が出なかった。 「……そういえば、試験ってどんなことをするんですか?」 ずっと気になっていた質問。朝、彼に聞いても「知るわけねーだろ」と全身からダルそうな雰囲気を出すだけだった 簡単な試験ではないのはわかっているが、やっぱり知っておきたい 「んー…なんだったっけ?一次試験は筆記だっけ?」 「筆記っつーか…いや、筆記だけどよ」 確か一次の試験官はあのドSだったはず、そうこぼしかけたアスマは言葉を飲み込んだ。つぼみに言っても伝わらないだろうし、伝えてわざわざ心配させる必要もないだろう カカシも試験内容を思い出したのか「そうそう、ただの筆記テスト」と言ってつぼみの頭を叩く その様子を見たアスマが一言 「カカシ、その行為が出来るのは今だけだ。気を付けろよ」 「え?どういうこと?」 カカシが言葉の意味を知る日はそう遠くない 「筆記、かぁ…」 シカマルくんたち、大丈夫かなぁ… 不安げに空を見上げる。出掛けたときは青色だったが、もうオレンジ色に染まりつつあった つぼみの頭の中には、バツの付いたテスト用紙を片手に遊びに来ていた幼なじみの姿が 「テストしくった。へこむ」なんて言う彼を慰めていたのは、彼女にとってまだそう古くない思い出である。そう言えばよく膝枕してあげたっけ、なんでそうなったのかはよくわかんないけど 「受かりますように」、今日の朝もそうお願いしたのだが不安になってきた。つぼみは、日が沈みつつある空に向かって再び願った そのころの試験会場では 「………ふわぁ、」 天井のシミを見つめ、大きなあくびをする受験生が一人。そんな彼を監視する試験官は眉間のシワを濃くした。なんだ、こいつのやる気のなさは 今回のこのテスト内容、確かに忍の常識も問われるがそれよりも情報収集能力…そして忍としての覚悟が試されている 後者は後で試すからいいが… 試験が始まってまだ十分も経っていない。他にも監視しなければいけない受験生がいるため、最初から見ていたわけではないが、この試験官が彼…シカマルがペンを持った姿をまだ映していない なんだよ、このやる気のない野郎は! これだったら幼稚なカンニングしているやつの方がまだ増しだ 不合格にはなってしまうが、意地でも合格してやる!という気持ちが伝わってくる 「不正行為しろ、早く失格にさせろ」殺気混じりに視線を送りながら、ひたすら試験官はシカマルを睨んだ そんな視線を受け流し、シカマルは腕を枕に頭を倒す 埋めた顔は見ることができず、彼が笑いをこぼしたことに誰も気づかない シカマルはゆっくりと目を閉じた アカデミーの試験よりは難しかったが…まぁ、チョロいな テストで結果を出したことはないが、やる力は持っているシカマル。今まで何故やらなかったのか、理由はつぼみしかない 良い点とって「がんばったね」って、言われんのもいいけど 赤点とって「次は大丈夫だよ」って、慰めてもらう方がいいんだよ ていうか、膝枕がいいんだよ シカマルが赤点ごときでへこむはずがなった。むしろ、膝枕の口実あざーす、と感謝していたぐらいだ でも、ま…今回はがんばるか。仕方ねぇよな、つぼみに応援されちゃあよ シカマルくん、がんばってらっしゃいな! そう、元気よく見送ってくれた彼女の笑顔。目を閉じれば何度でも再生される 自分の髪を結ってあるつぼみの髪止めに軽く触れた あー、良い夢見れそ 一次試験が開始されてようやく十分が経過。シカマルの答案用紙は最後の一問だけを残して、すべて埋まっていた (めんどくさい?そんなこと、あるはずねぇ) |