買い物に出掛けた母を待つこと数分。まだまだ帰ってこないとわかっているのだが、つぼみは玄関前をうろうろとしていた 掃除洗濯とやり、ご飯の支度を、と思い財布を握ったら 「つぼみちゃん、お仕事お休みなのにそんな働いちゃあダメよー。買い物なら私がいくわぁ」 と花を辺りに飛ばし、オハナはつぼみの手から財布を取った。いや、でもお母さん… のんびりしてなさい、そう言って家の戸を開けた母の背を不安そうに見つめるつぼみ。だからちょ、ま、お母さん! 「お母さん!鼻血!鼻血出てる!いつの間に転んだの!?」 「ティッシュなら持ってるから大丈夫よー」 「そうじゃなくてええええ!」 現在進行形!今なの、なうなの!つぼみが叫ぶもオハナは笑って出ていってしまった。急いで追いかけるも、そこに彼女の姿はもうなく ……こ、こういうときだけめっさ早いな! 仕方なくお留守番をすることになった。彼女的にはつぼみを思ってやったことなのだろうが、つぼみは何一つ休めていない 精神的に大きな負担がかかっている ど、どうしよう。やっぱ追いかけた方がよかったかな… 今頃外で転んでるかも ていうかお母さん、今まで買い物成功したことなかったよね? 「今日はコロッケ作るから」と言ってサツマイモを買ってきたときは、思わず二度見した。「同じおいもさんよね?」そう笑顔で言い切った彼女に、つぼみは笑い返すことしかできなかった あぁああー、もう!やっぱり追いかけなきゃだよ、これ! サンダルだけど、関係ない!焦りながら玄関の扉を開ける。そして上げられた足は前に進むことなく、後退した。って、え? 一歩二歩三歩、後ろに下がっていき、最後はぺたりと尻餅をついた。訳がわからなかったが、とりあえずいきなり現れ、いきなり抱き付いてきた彼の背中を叩いた 「シカマルくんやい、いったいどうしたのかな」 「………じゅーでん」 しにきた。そう力なく呟き、更に強く抱き締めてきた。充電って、なんの? 何故か甘い匂いのするシカマルくんに更に詳しく聞いてみると、明日中忍になるための試験を受けるらしい ていうか、服になんかシミが付いて…あ、聞かない方がいいの?うん、わかったよ 「試験かぁ…ずいぶんと急だね」 「やってらんねー、マジめんどくさい。風邪引かねぇかなホント」 相当嫌なのか、一向に離れようとしない。たまにこうして甘えてくるので特に問題はないのだが…強いて言うなら玄関ではちょっと 座ってるからお尻が痛いよ 「一回離れようか」優しく頭を撫でながら尋ねるも、イヤイヤと首を横に振られてしまう。うーん、困った。何が困ったって、こうしてくるシカマルくんが可愛いから無理に引き剥がせないから、困った 「つぼみはさー、平気なの?」 「なにが?」 「なにが、って…」 試験だぞ?中忍試験、やるんだぞ、こっちは アスマの話じゃ数日は帰ってこれねぇって… そんなん、無理に決まってんだろ と言ってやりたいのだが、さすがのシカマルも恥ずかしくて言えない。とりあえず行動で伝われ、なんてヤケになりながらきつくきつく抱き締める もちろん、伝わるはずはないのだが 中忍試験かぁ…どれぐらい大変なんだろう まず忍のことがまったくわかってないからなぁ でもきっと、想像以上に辛い試験なんだろうね 口元を緩め、つぼみはシカマルの髪に手を伸ばす。彼の長い髪を結っているそれをするりと解いた そんな彼女の行動にシカマルはようやく顔を上げる 「つぼみ?」 「はい、交換っ」 自分の長い髪が顔にかかり鬱陶しい。つぼみの顔が見えねぇだろうが 片手で掻き上げ、笑いながら何かを差し出す彼女を視界に映す。よく見ると、いつも結んである彼女の髪もほどかれていた 「ほら、後ろ向いた向いた」 つぼみに言われるがまま後ろを向く。彼女の小さい手がシカマルの髪を纏めていく 「この髪止めはねぇ、これでも限定品なんだよ」 雑誌のだけど、ちゃちいけど!櫛を持っていない状況だったので、元よりボサボサになってしまった 束ね損なりぴょんひょん跳ねる自身の髪を触るシカマル。ホント、お姉さん不器用だね。そのくせ勝手に解いてごめん! まぁ、やってしまったものは仕方がない。そんなダメな開き直りをし、つぼみは手を叩いた 「シカマルくんが、無事試験に受かりますよーに」 「………………、」 「……よーし、これで大丈夫!限定品のお気に入りの髪止めだし、合格できるよ」 がんばれ!そう言い彼の頭を撫でて、エールを贈った。シカマルは赤い頬とにやける口元に触れ、安心する。つぼみが顔見てなくてよかった 彼女にとってこの行為に深い意味はないだろう。ただ、弟のような年下の幼なじみを応援しているだけ それぐらいしか意識してねぇだよな 子供扱いすんなよ、ちゃんと男として見てくれ。そう声を大にして言いたいのだが………このやり取りも満更嫌じゃねぇからなぁ 自分のだらしない今の顔を見られたくない、でもそれ以上につぼみの顔を見たい。シカマルは振り返り彼女の髪止めを手にした 「あんがと、絶対受かってくるわ」 「おう!頑張ってきなさいなっ」 「つぼみも後ろ向け。お返ししてやるよ」 おれより長く、やわらかいそれをひと撫で。特に動揺することなくつぼみは「ありがとう」と笑った ちくしょう これじゃあ、がんばるしかねぇじゃんかよ 「…つぼみー、明日の試験行く前に来るからそんときまた縛ってくれ」 「え?」 「その方が受かりそうな気がする」 「あ、そう?よし、わかった。朝一番に来なさい」 「おう、まじないよろしくな」 (なんて言うけど、ホントは明日もこの笑顔が見たいだけ) |