シカマルが壁に寄りかかりつぼみを待つこと数分。急いで戻ってきた彼女は、遠くを見つめる彼に買ってきたものを被せた


「………なぁ、つぼみ。これ、カッパって言うんだぜ」

「知ってるよ。ちゃんと傘も買ってきたって」


バッと開かれた傘はとても大きく、綺麗な青色をしていた


「シカマルくんの好きな空色ー」と言って笑う彼女に、自分の体温が上がった気がする。好きなのはのんびり浮かんでる雲、を眺めることなんだけどな





「濡れないようカッパ着て、傘も一緒にさしてね」

「………一緒に?」

「え?」

「…………一緒に、さすんだな?」

「う、うん」


カッパのボタンを止めながら何度も聞いてくる彼に、つぼみは戸惑いながら頷く

そんなつぼみにシカマルは力なく笑い、傘を彼女の手と一緒に握った





「一緒、」

「…シカマルくん」


まさか、


「一つの傘に、一緒に入って、帰る」


わぁお、やっぱりそう受け取っちまったのかい





違うんだけど、なぁ。つぼみの言う"一緒"とはもちろん傘とカッパを同時に使おうという意味。そしてシカマルもつぼみの言いたいことは理解していた


しかし、彼は勘違いしたフリをする。もちろんそこには下心しかなかった





「つぼみ、のんびり帰ろうぜ」

「だめ!」

「……………風邪、」

「!」

「………しんどい」


本当かよ、彼の本性を知っている人物ならそう言いたくなるだろうが、どうやら今回は嘘ではないらしい

重心が前に傾き、つぼみの首もとに顔を埋める。その瞬間、口元がにやけていたが本当に風邪を引いている。本当に、だ(つぼみの匂い、)(落ち着く)


「しんどいなら尚更急がなきゃ」

「んー、」

「大変だけど、がんばろう!ね?」

「ん゛ー…」


まだガキ扱いしてくるつぼみに一瞬苛立つシカマルだったが、今の状況なら確かに自分はガキだな、と思い開き直った。せっかくだからも少し甘えよう、病人なんだからいいだろ?なぁ、





「つぼみ」

「大丈夫?歩ける?」

「がんばれる、けどダリぃ」


だから、さ


「おれん家よりつぼみん家の方が近いから、そっちで寝かして。そんでつぼみが看病して」


「そうすりゃ直ぐ治っから」そう言って、つぼみを握っている手に力を込めた

シカマルの台詞に目をパチパチさせ驚くも「あぁ、そういや風邪引いたときは心細くなるって聞くなぁ」と、笑って了承する


「あ、でも薬ないかも」

「……おれの薬、つぼみだから大丈夫」


なんだそりゃ

風邪で頭が正常に機能してないとかか?


つぼみが心配そうにシカマルを見つめる。多分正常な状態でも同じ答えが返ってきただろう

とりあえず、我が家に招くためにはこの雨の中を歩いていかなければならない


「がんばって帰ろうね」そう言ってつぼみはシカマルに肩を貸し、歩き出した







「…雨に感謝、だな」

「ん?」

「んーん、なんでもねぇ」


二人で一つの傘を使い帰宅する

ぶつかる肩と肩、手だって普通に繋げるのにどうしてこの距離に、鼓動が止まらない?…簡単じゃねぇか





「つぼみ、膝枕して」

「えっ?……ぅ、うーん。シカマルくん、重症だね…」


つぼみが、つぼみがいるだけで

おれの何もかもが乱れる



家に着いたら、つぼみに向かって倒れてみようか


まだ彼の本性を知らないつぼみは、気遣いながらシカマルを運ぶ。うし、倒れよう、そんで運がよければ胸に埋めよう。何を?顔を


シカマルの口元は、つぼみが家の戸に鍵を差し込んだとき、綺麗な弧を描いた





(つぼみが傍にいるなら、一生風邪でもいいわ、おれ)



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