「おー、どしゃ降り」


この時期は天気が不安定で、三十分前まではあんなに晴れていたのに今はバケツをひっくり返したような雨が降っている

事前に傘を用意していたとはいえ、この雨の中帰るのは躊躇われる。つぼみは雨脚が弱くなるのを店先で待つことにした


夕飯の買い物に来たらこれだよ、まったく


通り雨だったらいいなぁ、と思いながら空を見上げる。雲の様子を見る限り、引く気配はない。くそう、残念


「これじゃあ帰れないねぇ」

「ははは、そうですねぇ…」


店員のおばちゃんに「中で雨宿りしたら?」と聞かれたが断った


どうせ止まないのだ、強行突破するしかない。傘もあるし

頭以外は濡れるだろうけどね!


走れない距離ではないが、この荷物と傘が邪魔で仕方ない。しかし、止む気配もない

つぼみは手元の傘を開き気合いを入れた


そして数十メートル走ったところで、傘を持たぬ人すれ違う。うわ、傘忘れたのかな?と思いなんとなく視線を向け、ギョッとした





「ちょ…ッシカマルくん!?」

「…………んっ?」


名前を呼べば、間を開けて振り返った彼。んっ?じゃなくてねぇ…何でこの雨の中傘をささずに歩いてるの!?

つぼみは先ほどいた店まで彼を連れ急いで戻った


びしょ濡れの男の子を連れ戻ってきた私におばちゃんは驚きながらタオルを貸してくれた


「傘も持たずに何してるの!?」

「任務、中止になったから帰ってた」

「か、帰ってたって…」


この雨の中を?


わしゃわしゃとつぼみに頭を拭かれながら、シカマルはコクンと頷く。「どうして雨宿りしなかったの?」と聞けば、彼お馴染みの「めんどくせぇから」という返事が返ってきた


せめて走るとかしなよ!……って、言いたいけど

どうせ「めんどくせぇ」って言うんだろうな


つぼみはハハ、と笑いをこぼす


びしょ濡れから生乾きになった彼の頭からタオルを退かし、肩にかける。服とかは自分でやりなよ、と声をかけようとしたところでつぼみは異変に気づいた


潤んだ瞳

赤みを帯びた頬

高い体温にいつもより乱れた呼吸


……………この症状はもしかしなくても





「……シカマルくん、まさかあなた…風邪引いてる?」

「うん」


うん、


じゃないでしょ!


とろーんとした顔でこちらを見つめてくるシカマルにつぼみは怒る。しかし返ってくる言葉は「おー」や「あー」など生返事なものばかり

これは重症だ、と青ざめたつぼみはタオルを店員に返し、店内へと足を向ける


………も、シカマルに掴まれその場で立ち止まってしまった


「…どこいくんだよ」

「どこって、店の中!」

「…んで、」

「もう一つ傘買いにいくの!ここ、雑貨関係のもあるはずだから……」

「……………………あんじゃん、傘」

「一つしかないでしょ」


一緒に入ればいいじゃん

一緒に入って、肩寄せあって


狭いその世界に、おれとつぼみ

二人だけに、なりゃあいいじゃん


そう言いたくてもいつも以上にダルい体が言うことを聞いてくれない。掴んでいた手も離れ、店内へと入っていったつぼみの背中を見送った(あ、やだ)(勝手に行くんじゃ、)(ねぇよ)


手を伸ばすも、もう既に姿の見えないつぼみ。直ぐに戻ってくるだろうけど…


伸ばした手を下ろそうと力を抜こうとしたら、温かいものに包まれた


つぼみ?もう戻って、




「握手か!坊主!」

「…………………」


知らないおっさんだった


なぜこのおっさんはおれの手を握ろうと思ったのか………あぁおれが手を出してたからか


不快指数がMAXになった瞬間だった。風邪を引いていなかったら、このおっさんを捻り潰していたかもしれない





「こんな雨じゃあ元気もなくなるな!」

「おっさん、どうか消えてください」



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