ご臨終したハタキを捨て、シカマルくんと向き合う

まだ座ることもできない彼は、手足をばたつかせながらこちらをじっと見てきた


ちなみに二人の父は今後ろで話をしている。つぼみは忍関連の大事な話だと思っているのだが、実際は


「息子、まだ0歳なんだけど、いろいろとおかしいんだけど!」

「えー?普通ですよ」

「…てか、お前ん家のお嬢ちゃんもおかしくねぇか?二歳児なんだろ!?」

「いやー、オハナに似て天才なんですよー!」

「……それで済むお前の頭が羨ましいぜ」


……そんな会話が繰り広げられていることは知るよしもなかった





「シカマルくんの髪ってしゃらしゃらねー」


お姉さん、羨ましいわー


見た目は二歳でも中身は成人した女なのだ。母性が芽生えないはずがない

だらしなく緩む頬を隠すことなく、つぼみはシカマルを撫でる


「……むっ!」

「ん?」

「あーうー!」


ばたばたさせていた腕をぐーっと伸ばす。シカマルくんも髪を触りたいのだろうか、と思ったつぼみは寝ている彼に届くよう頭を下げた


ぽんっ乗った小さな手

しかし、乗った場所は髪ではなくつぼみのおでこだった


「ふふふ、なぁにぃー?」

「……あうあい、うあうー…あー!」


ずきゅーん!


そんな音がつぼみの脳内に響く。目の前の赤ん坊、否天使に胸を撃ち抜かれた彼女はシカマルに覆い被さるように抱き付いた

本当は抱き上げたかったが、さすがに二歳児の体ではしんどい


「んー…!シカマルくん、かわいい…!!」


髪さらさら!

ほっぺぷにぷに!


もう天使以外の何者でもないー!!


「ぅあ…?」

「むふふー、シカマルくんしゅきよー」

「!!」


まだ一歳にも満たない赤ん坊が言葉を理解するはずがない。それでもシカマルはつぼみの「好き」という言葉に反応をした

そして嬉しそうに頬を緩め、抱き締め返す


「ぁー…う!」


なんと言ったか、この声を理解できる者はいない。しかし彼の表情を見るだけで大体予想がついてしまう


―おれも、好き―


抱きついているためシカマルの顔が見れないつぼみに、その想いが届くことはなかった










しかし、それを初めからすべて見ていた親父二人にはバッチリと届いたらしい


「…最近の赤ん坊があれなのか?あれが普通なのか?いや、ちげぇよな?な?なぁ?なぁ!?」

「…………いやー、もうあれじゃないですか?」

「どれだよ!」





「愛があれば何でもできる!」

「……………は、」

「さっきのなでなでもそうですが、おれはシカマルくんのつぼみに対する想いが伝わりました…!!これが純愛!ラブストーリー!!」

「…んな言葉で納得できる状況じゃあ、ないんだがなぁ……」

「でもまだ娘はやれませんよ!」

「………いや、まだ二人は子供だし。それはねぇんじゃねぇのか?」


幸か、不幸か。将来有望である忍に目をつけられたつぼみ。どちらにせよ、彼の愛は一生モノだということに、誰一人気づいていない

シカマルはまた同じようにつぼみの額を撫でる。そこが朝ぶつけたところだったことに、彼女はすっかり忘れている


「あうあい、うあうー…あー」


それでも彼は大好きな彼女の額を撫で続けた





(いたいの、いたいの…飛んでけー)



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