「先日はせっかくシカクさんに来ていただいたのに、何もできなかった!」

「どうしゅるの?」

「今から謝ってくる」


「あと何の用事だったのか聞いてくる」そう言って父が出掛けたのは15分前のこと

つぼみは今日の仕事である掃除をしようと、ハタキを片手に歩き回っていた。ときどき自分の頭の重さで転びそうになるのを気を付けながら。…子供って大変だったのね


「んしょんしょ…」


埃はどこにでもあるなぁ

…これ終わったらホウキで掃こう


「つぼみは働き者だな!」

「!」


ゴンッ!


「あ゛ぁ…!?つぼみー!!」

「…………」


痛い、


突然背後に現れた父。こういうときに忍だったんだな、と実感できる

しかしいきなりは勘弁願いたい。つぼみは棚の角にぶつけたおでこを押さえながら、父を見上げた


「どーしたの?」

「え、あ、大丈夫か?」

「うん」


コブ出来たけど


「あ、いやな。ちょっとつぼみにも来てもらいたいんだ」

「……?どこに?」

「シカクさん家」


何故?疑問を持つも答える前に抱き抱えられたつぼみ。父は母に一声かけ、目も開けられないスピードで里中を駆けた

ちなみに片手のハタキは未だに装備中である





「とーしゃ、なんで私もいかなきゃなの?」

「はっはっは、ちょっと問題が起こってな!」

「もんだい…」


私なんかで解決できるとは思わないけど。というか問題とは?


にかっと眩しい笑顔を向ける彼はどうやらこれ以上答えるつもりはないようだ

わからないまま目的地に到着。した瞬間、問題がなんなのか理解する





「ぅあぁあああ、ぁあ…!!!!」

「シカマルー!今来るから!もう来るから!」

「あ゛ぁ、うぁああ…!!!」


ほ、ほほう。相変わらず元気ね、ぼくちゃん


近所中に響き渡る泣き声。お父さんは私にこれを解決させろと言うのか。いや、無理でしょ

しかしそんな私の心情を知るはずもなく、この騒ぎの中父は変わらない笑顔で戸を叩く


ガラッ!


「シカクさん、どうも二度目のこんに、」

「お嬢ちゃんよくきたな!」

「…ちはぁー?」



「…おぉう?」


叩いた瞬間開いた扉。一回目のノックで全開になった扉。そこには昨日と違い髪をボサボサにさせたぼくのお父様が


己の父があいさつをするもその途中で拉致されるつぼみ。固まるサンを無視し、シカクはつぼみを小脇に抱え自宅を走る

そして状況理解の出来ていないつぼみを、この騒ぎの原因の目の前に置いた




そこには昨日も見た泣きじゃくっているぼく。「頼む!」と頭を下げてくるお父様には申し訳ないが、無理です。今手汚いし


「あぁあ゛ぁぁ…!」

「ぼくー?」

「名前はシカマル」

「…シカマルくーん」


…一応、やるだけやるけど。教えてもらった名前を呼びながら、持っていたハタキを振る


小さい子供はこういう感じのものに興味が………あればいいな。いや、あってくれ!


そう願いながら、つぼみはぱたぱたと振り続けた


………人間、諦めなければ願いは通じるもの

そう、また奇跡が起こったのです





「あ、ぅ………」


お?


「……………」

「…シーカマールくーん」

「!」


つぼみの声に反応したシカマル。ハタキを振りながら自分の名前を呼ぶ彼女の存在に気付く

泣き顔から一変、笑顔に変わった息子を見てシカクは複雑な気持ちになった





「うーんと…シカマルくんは、ハタキがしゅきなのかなー?」

「あー…」

「私もハタキしゅきだよー。掃除にはたいしぇつなものだしねー」

「……むぅ」




「……………」


親子だからか、息子の言いたいことがわかってしまう


「シカクさん、酷いじゃないですか。おいてくなんて」

「あ、あぁ…悪い」

「あの…」

「!なんだい、お嬢ちゃん」

「手、洗いたいんでしゅけどいいでしゅか?」

「あ、あぁ!構わないよ!」

「じゃあ父さんと行こうか。シカクさん、洗面台借りますね」


二人の背中を見送り、スッと足下に視線を向けた。そこにはつぼみが持っていたハタキが床に転がっている





………激しくおれの気のせいだと思いたい。いやしかし、どうしてもさっきの会話が、





「うーんと…シカマルくんは、ハタキがしゅきなのかなー?」

『違う、好きなのはあんた』

「私もハタキしゅきだよー。掃除にはたいしぇつなものだしねー」

『…ちっ、棒切れのくせに』





…………いや!ねぇな!さすがにそれはねぇよおれ!

あー、きっと疲れてんだろうなー。しっかり休まねぇと


母ちゃんが買い物から帰ってきたら、少し寝かしてもらうか!


うんうん、と眉間を押さえながら頷くシカク。そんな彼の足下でシカマルは短い腕を伸ばし、なんとかハタキを掴んだ


「………は、ははっ!シカマルはただハタキが好きなだけだったんだな!」

「……………」

「変な勘違いしてすまなかった、息子よ!」

「……………





……んむ!!」





バキィ!!


「………………」

「……あうっ」

「………………………………………………………………ふぁっぷ…ッ」


真っ二つに折れたつぼみのハタキ

真っ二つに折れて嬉しそうなシカマル

真っ二つに折れたくなり奇声を溢したシカク





そのあと戻ってきた二人に「すまん、踏んで折っちまった」と言い謝った。どうしても真実を話す気力を、シカクは持っていなかったのである



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