仕事がない晴れの日

心地よい日差し

縁側で昼寝



あの娘と二人っきりのこの空間


「これ以上の幸せはねぇなぁ…」

「んぐっ?」


おれの小さな呟きに、饅頭を口一杯に詰めたあの娘が反応した

縁側に足を投げ出しながら座るあの娘。その隣で横になっているため、視線はおれの方が低い


食べる?、とあの娘が差し出した饅頭はおれがあげたもの。あまりにも幸せそうに食べるもんだから渡してしまったの少し前のこと


食えないわけじゃねぇが、もとから甘いものはあまり好かねぇし


「ん、」「いや、食っていいぞ」差し出してきた饅頭を押し返し、食べるよう促す

そうすればあの娘はまた頬を膨らませた。めっちゃかわいいけど、よくそんなに入るな




「…っごちそうさま!」

「うまかったか?」

「うん!」


最後に少し冷めて飲みやすくなったお茶をすすった。ゆっくりと湯飲みを置いたのを合図に、おれは体を起こしあの娘を抱いてあぐらをかく。うんうん、おれの癒し


つーか、奈良家の癒し


つい先日の出来事を思い出す。あの日からおれのスキンシップはより一層暑苦しくなった気もするし、前からこんなだった気もする


後ろから包むように、そして腹に手を乗せればぽっこりと丸くなっているのがわかった。さすがにあのサイズの饅頭二個は多かったな


「お腹ポンポン」

「うん、ポンポンー」

「さすがに食べ過ぎたな…」

「でもまだ食べれるよ!」

「まじか」


おれの嫁さんはそれなりの胃袋の持ち主らしい。きっと将来的にもっとおれ好みの女になるだろう。ぷにぷに万歳






「兄ちゃんあのね、」


特に何かするわけでもなく、膨らんだあの娘の腹を叩いたり撫でたりしていたら、あの娘が小さく声をかけてきた

おれは動かしている手を止め、彼女の言葉に耳を傾ける


「私ね、兄ちゃんのこと好きだよ」

「おう、おれも好き」

「……お遊びじゃなくて、本当だよ?」


そんなん、おれだってそうさ


好きで好きで、年の差とか、そんなのどうでもよくなるくらい欲しくてたまらない

彼女を手に入れるために、外堀を埋めてやった。例えあの娘の気持ちがおれから離れても、離してやるもんか


「おれだって本当だっての」

「…うん、」

「…………信じらんねぇの?」

「……………」


こんなに行動に表してやってんのに、案外伝わらねぇもんだなぁ…


ま、あの娘も子供なりに不安なんだろ。あー、かわいい


そうやって、おれのことでずっと悩んでりゃいいのに





「あの娘、」

「……………」

「手」

「……て?」

「手、乗っけて」


そう言ってあの娘の目の前で手を開けば、彼女の小さく柔らかい手がおれの厳つい手の上に乗った

本当は絡ませたかったがサイズの問題でそれは少々難しいので、ぎゅっと包むように握ってやる


「約束、すっか」、不思議そうにそれを見るあの娘に言った


「約束?」

「おれとあの娘はずっと一緒っていう、約束」

「…!」

「まぁ、もう婚約したんだし、今更な気もするなー」

「こんにゃく?」

「うん、あとで食うか?」


かわいらしいボケにキュンとする。「えー、いらないよぉー」と頬を赤らめながら笑う彼女にまたキュンとする。キュン死にする


「こんにゃくじゃなくて婚約な、こんやく」

「食べ物?」

「違うって」


食べ物から頭を離せ。まだ食い足りないのかよ


「婚約っつーのは、約束みたいなもん」


握っていた手を開き、横から顔を覗きこむ。こちらを見てくるあの娘は大変かわいらしいが、とりあえず今は手の方を見るよう頼んだ



「婚約はな、結婚の約束だな」


だからあの娘

おれと約束してくれよ


「な?」と問えば、あの娘は視線をこちらに戻した。そして真っ赤に染まった顔をおもいっきり縦に振る。婚約は知らなくても、コレは知っていたらしい



あの娘のかわいらしい返事に、おれの緩みきった頬と彼女の柔らかい頬を合わせて抱き締めた





おれの大事な、未来のお嫁さん

そんな彼女の握っていた方の手には、おれにとっては体の一部である黒い物が巻き付いていた


離さないように、と手の平全体に

約束をするために、と指には薬指だけに



「約束、守る!絶対守るっ!」

「おれも、約束」


あ゛ーもー、

ホンットにかわいいんスけど!!!





輝かない黒い指輪


「兄ちゃん好き!」「おれも好き。だからキ、」「大好き!」「うんおれも。なぁキスし、」「私シカマル兄ちゃんのこと、幸せにする!」「ちょ、あの娘さん男前」



嘘ついてもはーなさないっ