好きになってしまったのだから仕方ない。例え周りに何と言われようが、おれの気持ちは変わらない


だらしない顔と言われようが、こちとら真剣なんだよ





「ならいいんじゃない?」

「…そう言ってくれんのはお前だけだぜ」


チョウジ、と発せられた声が震えた。何だかんだ言っても、周りからの冷めた視線が応えていたらしい。…………いや、一番の原因はそれじゃねぇ


「味方がチョウジだけかはどうか知らねぇが……あの二人はなんつーかなぁ」

「だよなぁ…そーだよなぁ…」


煙と同時に吐き出されたアスマの言葉に深く項垂れる。そんなおれに菓子を差し出して慰めてくれるチョウジに泣きたくなった。ありがとよ…



なぜ俺がこんなにも落ち込んでいるのか

簡潔に言うと、あれだ





おれのこのロリコン騒ぎが、親父たちの耳に入ったらしい



…………終わった

いろいろと終わった


あの娘とは相思相愛(あ、少しテンション上がった)なわけで、無理矢理付きまとってるわけではない。世間で言うカップルと、なんら変わりはないのだ。………年の差のことを除けば(……あ、テンション下がった)


これからどうなるかわからねぇが、話し合いは免れない

いつもだらしない顔の親父が脳内で真顔になった





「…あ、そうだ」

「ん?」





抜け忍になろう

そしてあの娘と一緒に幸せに、


「冗談だってのはわかってるが、次言ったらしょっぴくぞ」

「アスマ、悪かった。だから笑顔は止めてくれ。きもちわ、」

「はい逮捕」

「心は広くいこうぜ、大人なんだから」


腕に巻かれていく縄を眺めながらあの娘を想う。あ、いや、別に縛りたいだなんて思ってないッス。あの娘が泣いちまう。そうなったら大変だ。なにが?おれが。どうして?だってよ、



ピーピー泣くあの娘を見たら


「ちょっと興奮するわー、」

「えっ…?ドM…?」

「いや、どちらかというとS」

「…ぇ?」

「え?」





「ねぇねぇ、ボクいいこと思い付いた」


袋を逆さまにし、欠片も残さず菓子を完食したチョウジが言った。本当に良い案が考え付いたのか、輝かしい笑顔をこちらに向けてくる


「いいこと?」

「うん!」


チョウジ……ッ!!


おれは唯一の理解者、唯一の味方であるチョウジのその言葉を信じた








そして





「………………」

「………………」

「………………」



「………………まぁ、おれが何を聞きたいか、わかってるよな」


泣いた。わかってるチョウジは騙すつもりなんてなく、本当に助けてくれるつもりだったってことぐらい

だからこそ、おれは泣くしかなかった


チョウジの考えたいいこととは、「シカクさんと話すときにボクらが隣にいてあげるよ。その方が心細くないでしょ?」「え?おれも行くの?」「うん、ボクらの先生だし?」……ってことらしい


確かに一人より心強い。しかし、先生に……親友にこの情けない姿を見られると思うと今すぐ泣きたくなる



つーかチョウジさん

根本的なもんがなんも解決されてねぇんスけど


険しい顔でこちらを見てくる目の前の親父を、どうやったら説得できるかで悩んでたんスけど


しかしそう嘆いても、家には到着してしまった。覚悟を、決めるしかねぇのか…?いや、無理だろ。逃げ腰野郎のおれには…

いつもは曲がっている己の背筋を伸ばしながら、おれは現実逃避の体勢にはいった


「シカマル、」


しかし許されなかった

ちくしょう、あの娘さん助けてくれ。今回はマジで助けてくれ…ッ!


無表情、しかし内心焦りまくりのおれに向かって、親父は口を開いた


「おれが聞きたいことは一つ」


あの娘ちゃんとの噂は本当か?


テーブル越しに視線が重なる。相変わらず真剣な表情の親父に対して、おれは間抜けな面をしていたと思う





なぁんで親父が「あの娘ちゃん」って呼んでんだろ。知り合い?知り合いなのか?

つーか噂って、どんな感じに流れてんだし


おれがロリコンだ、とか?

それとも犯罪者?…勘弁してくれよ

あ、年の差カップルとかならいいな



『へへへ…シカマル兄ちゃーん』


…あの娘、


名前一つで浮かんでくる、少女の姿

あいつは不思議な力があるのかもしれない。その証拠に、彼女の名前を呟けば他のことなんかどうでもよくなってきた





「……好き、です」


この気持ちに嘘はねぇ


「おれはあの娘のことが、好きです」


そんで、本気なんだ

軽蔑でも反対でも、何でもしやがれ



おれは諦めねぇぞ





「……つまりそれは、あの娘ちゃんとの噂は本当だってことか?」

「どんな噂か知らねぇが、おれはあの娘のことが好きで、向こうもおれを好いていてくれてるのは確かだ」


横の二人の表情が見えねぇが……あー、いてくれてよかったかも

思いの外、心強いわ





ガタッ!!


「シカマル、お前…ッ!!!」

「!」


勢いよく立ち上がった親父に、反射で肩が跳ねた

相手の振り上がった手に、衝撃を覚悟する



スパーン!!!





「………………」


…………あ?


「「でかした!!!」」




「「………はい?」」

「……………あ?」


おれとチョウジとアスマの気の抜けた声が部屋に響いた


…え?今親父が立ち上がって?殴るために上げたと思った手で、おれの肩を掴んで?は?え?母ちゃんが襖をあけ、え?

………でかし…え…?





「母ちゃーん、聞いた?今の聞いた?バカ息子がやってくれたよ!」

「聞いた聞いた、聞いたよ!本当にあの娘ちゃんが娘になるのね!!あぁ、もう嬉しいったらないわ!」

「早くあの娘ちゃん、結婚できる年にならねぇかな…」

「私、お義母さんって呼ばれたい」

「おれだってお義父さんって呼ばれてぇさ」

「「…ふっ…はははははっ!」」


理解に苦しむおれらを放置し、手を取り合いながら喜ぶ親父たち。なぁ、二人がんな笑顔で笑い合う姿初めて見るんだけど


「なぁ親父、」

「んっ?」


うわ、笑顔キモッ

…じゃなくて


「…反対、しねぇの?」


めちゃくちゃ反対されると思って、覚悟してきたんだけど…


「なんで反対するんだよ、なぁ?」

「えぇ、そうよ」


私たち、あの娘ちゃんのこと娘にしたいほど大好きなのに





「…………あ、そうですか」


当たり前のように返されてしまった。楽しそうに会話を再開した両親を見て、おれは仰向けに倒れた



なんつーか、

まぁ、


「シカマル、よかったね」


いやもう、本当そうだよ


全身の筋肉が一気に緩んだ。疲れもドッと来た。でもすんげぇ楽になった


胸の奥底に残っていた小さな不安が消し飛んだ瞬間だった。もう、躊躇うこたぁなんもねぇ


唯一の不安要素だった親からの反応、それが解決した


あぁー、無性にあの娘を抱き締めてぇー

おれん家の縁側で、あの娘抱き締めて、ゴロゴロして、そんで、そんで


幸せに浸りてぇなぁ


へらり、と頬を緩ませればチョウジがまた「よかったね」と言ってくれた




「チョウジ、式には絶対呼ぶから。料理も好きなもんだしてやるよ」

「本当!?やった!!」

「……いやいやいやいやいや、『めでたしめでたし』の雰囲気にされても困るんだけど

ちょっとシカクさん!年の差考えましょうよ!!」


世間一般では正論である言葉を放ったアスマだが


「好きなんだし、いいんじゃねぇか?」


おれら奈良一族には通用しなかった


…きっとおれらは、あの娘にゃ敵わねぇんだろうな


いやー、


「あの娘マジ最強」

「シカマルん家、みんなで夢中だね」

「あぁ、あの娘争奪戦になるなこりゃ……ハッ、負ける気しねぇ」

「シカマルくん、顔が極悪人…」





両親公認夫婦


「はぁ、奈良一族も終わったな…」「は?おれとあの娘のガキがいるんだから、安泰だろうが」「……」「よく言った息子!」「楽しみにしてるよ!」「任せろ」「…そういう意味じゃねぇし」



奈良一族で彼女に夢中