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携帯を握りしめて家を出た。どこに行く宛てもなくただ走って、走って。けどこの足で行けるとこなんて結局限られてて。僕はそんな自分に腹が立ったけど、だからって何が出来るワケでもない。無力、無力、無力無力無力無力。ぐるぐると頭の中を回る二文字。正しく言えば四文字。はぁ…。自分のどこかサムイ言葉に走ってかいた汗も何だかひいてきた気さえする。あ、風邪ひくんじゃね、これ。そう思い始めるとものすごく寒く感じてきた。うぅっ…パーカーだけじゃ寒いよ、分かってたけど。


「…おい」
「っ!…な、なんだよ、財前…お前何でこんなとこ居んだよ」
「お前のおかんから連絡来てん。俺んとこ来てへんかって」
「へ、へぇー…」
「…心配かけんなや、アホ。帰んで」
「やだ」
「…調子乗んのもええ加減にせぇよ」
「や、やだ!やだ!なんか、今、宇宙行きたい」
「何ぶっ飛んだこと言うてんねん」
「ねぇ、財前」
「なんや」
「どこか遠くへ行こう!」


そう言って財前の体温を奪おうと手を握るとコイツの手は驚く程冷たかった。なんだよ、使えないなと思ったけど、それはつまり、長いこと僕を探していてくれたってこと?そう変換されると脳内で財前に土下座しておいた。悪いことしちゃったなー。っていうかさ、母さんは自分で探しに行かないで財前に連絡入れて探しに行かせるってどういうことなの?オッケーなの?親としてどうなの?ずっと握っていたせいか段々と財前の手と僕の手が暖かくなってきた。


「…とりあえず、寒いやろ。俺ん家行くで」
「えー、迷惑かかっちゃうでしょ。財前の家に」
「ここまで迷惑掛けられとるんやから今更気にすんなや」
「さー、サーセン」
「喜べ、明日は土曜やから学校ないで」
「やったー!フゥー!」
「聞け、俺は部活があんねん」
「へぇーお疲れー」
「迷惑かけた自覚あるんやったら、部活行くで」
「僕、テニス部じゃないんだけど」
「えぇから来い」
「…はーい」


グイっと腕を引かれた。すっごい寒くて、鼻とか真っ赤になってきた気がする。財前の部活やってる姿ってそういや見たことないなー。テニス出来んの?天才って言われてるくらいだから出来るんだろうけど。テニス部って言えば、謙也先輩居るじゃん!うおっしゃ、暇しない!四天宝寺なんて行ってれば基本的に暇しないけど。


「お前、携帯見てへんやろ」
「ん?うん…って、どんだけ着信入れてんの…引いたよ、財前」
「…しばくぞ」
「わ、ごめんごめん!ごめんって!」


しばかれなくてもどつかれた。頭痛いよ、財前。けど、ありがとう。携帯を見るフリをして財前の背中に視線をやる。同い年なのに大きいなぁ。心細い僕に静かに寄り添ってくれる財前。財前、財前、財前財前財前財前…。二文字がぐるぐると回った。正しくは四文字。うん、悪い気はしない。寧ろ、なんだか気持ちが軽くなった気さえする。