目覚ましが鳴り響く。とても耳障りだ。俺が設定したんだけど…。布団の中で丸まり、携帯に手を伸ばす。アラームを止め、メールをチェックする。メルマガや友人からのどうでもいいメールばかりだ。返信すんのもめんどくさい。すると、最近では見なくなった名前があった。紀田正臣。…紀田?寝起きの頭では理解するのに時間が掛かり過ぎた。いきなり姿消したと思ったら、連絡寄越すのもいきなりだな。 メールを開くとそこには「明日、池袋に帰る」と奴の言動からはやけにシンプルに感じられる短くて、素っ気ない文面。明日?これは昨日届いたメールだから、つまり、今日か。全てがいきなりだな。 時計は8時を指していた。こいつ、時間も場所も特に指定しないで俺にどうしろって言うんだ。目を覚ますためにもシャワーを浴びにいく。熱いお湯を全身に浴びながら紀田が居た頃を思い出す。…あいつと会う時はいつも、いけふくろうの前に12時集合だったっけか。よく俺も覚えてるな、と自分の記憶力に感心した。試しにその時間に行ってみるか。今日は幸いこれと言った予定もない。 シャワーを浴び終え、適当に朝食をとり、身支度を済ませた。そういえば、紀田は何で居なくなったんだっけ。俺は黄巾賊とダラーズの抗争には興味が無かったから関わっていないし、よく知らない。 そもそも俺と紀田はそこまで接点だとかがあったワケではない。まぁ、よく遊ぶ程度には仲が良かったとは言えるのだろう。しかし俺は紀田が心底嫌っている情報屋とよく連絡を取り、第三者として池袋を傍観しているのだから、あいつの嫌いな部類に入るのだろう。紀田に嫌われてるとは思ったことないけど。 なんか色々考えたら腹減ってきたな。単純な俺の頭と腹。もういい時間だし、なんか食いに行くか。育ち盛りの男子高校生なんだから一日五食くらいなんともない。 学生の味方、マクドナルドに行くと静雄さんに会った。なんか流れで奢ってもらった、ラッキー。 「すいません、なんか」 「あー、気にすんな。二人分もそんな変わんねぇから」 「やっぱ大人は違いますねー。俺もそんな余裕が欲しいっす」 「あぁ?そんな良いモンでもねぇぞ」 …そりゃアンタはな。そう思ったけど口には出さず他愛も無い会話をし、静雄さんと別れた。一食分浮いたのはすげぇ助かる。今日も池袋っつー街は人でいっぱいだな、と改めて思った。休日だし、そらそうか。俺はいつも、10分前には集合場所に着くタイプだ。紀田もそこまで遅いわけではないが。そもそもこの時間、この場所にあいつが来るって決まったワケでもないが。なんとなく、来る気がした。 「おーっす、久しぶり!やーっぱこの時間にいけふくろうに来てくれるって信じてたぜ、名前!お前は俺と過ごした日々を忘れないでくれてたってことだな!うんうん、俺感激!久しぶりの池袋はどんなもんかと思ったけど、やっぱ相変わらず人居るわ、賑やかだわ、変わんねぇな!」 「…お前も相変わらずだな。久しぶり、紀田」 「名前も俺のことを名前で呼んでくれないのは相変わらずだなー、このこの!」 「いいだろ、別に。…で?何で居なくなったのか、いきなり戻って来たのか、詳しく聞かせてもらおうか」 「へーへー、分かってますって!そうだな、とりあえず名前の家に行こうか!」 「はぁ?何で俺ん家なんだよ。その辺の店どっか入ればいいだろ」 「分かってねぇなー。忘れちゃったワケ!?俺の気持ち!」 「…えーと、あれか、長旅で疲れてんのか?」 「バカヤロウ!この紀田正臣様がそんな事でへこたれるような奴だと思ってるのか!そんなヘタレは帝人だけで十分だっての!」 「まぁよく分かんねぇけど、俺の家でいいんだな?」 「おうよ!」 紀田の意図が全く読めないまま先程出たばかりの家へと戻った。その間も喋り続けるコイツには本当呆れた。何も変わってねぇな。いや、安心したのかもしれない。 「久しぶりの!名前の家!匂い!んー、男くせぇ…」 「うるせぇな、文句あんなら帰れ」 「すみませんでした、名前様」 「はいはい」 紅茶やらコーヒーやらは面倒だったのでお茶をついで出してやった。 「そうそう!俺の気持ち、思い出せたか?」 「あ、忘れてた。お前なんか言ってたか?」 「おいおい、忘れてたとはなんだよ!しかも思い出せないと来た。お前はそれでも俺の親友なのか!あ、親友じゃないとかそういう反論は認めないぞ。俺の気持ちってのはな、言っただろ!名前のことが好きだって」 「…は?いやいや、俺そんなの聞いたことねぇし」 「言っただろー!俺がどんだけお前に思い馳せていたことか…。ゴホン、じゃあ改めて伝えようじゃないか」 「お前、女の子大好きじゃん」 「あぁ、うん、まぁ否定はしない、が!俺は、池袋から離れた後もお前のことが忘れられなかった、というか、忘れたくなかったんだ。同性にこんなこと言われても良い気はしねぇと思う。拒絶されてもいい。俺は、名前が好きだ」 「へぇー…。紀田くんが池袋に戻って来たんだ。君が突然消えた事が原因で名前くんは君との、そうだねぇ、辛い記憶を自ら消してしまったって言うのに。真相が紀田くん本人の口から暴かれた時、名前くんはどんな表情をするんだろうね。あぁ、その現場に立ち会えないのがとても残念だ。まぁ、すぐ分かるだろうけどね?はは、やっぱ俺は色んな顔を見せてくれる人間が好きだ、愛している!」 |