トリコが女の子注意!
あと長い、無駄に。









IGO主催のパーティに招待されたのは一ヶ月程前のことだった。こういったことは年に数回行われるので今更驚かないし、美食屋四天王と言われIGOに協力をしている僕らが招待されるのは自然だからだ。しかし、だからと言って乗り気なわけでもなかった。
僕は人混みが苦手だ。この体質もあるのだろうが、それを抜いてもあまり好きとは言えない。
パーティというのは、各国の政治家や実力企業の重役が集まるもの。その大半は男性だが、そのパートナーに多くの女性がパーティに招かれる。正直に言うと、人混みが苦手な原因はそれにあると言ってもいい。だが僕自信が女性に嫌悪や恐怖心を抱いているわけではない、ただ苦手なだけだ。嬉しいことに見てくれだけは良い方らしくたくさんの女性に声をかけられる。しかし香水独特の香りと綺麗に着飾ったドレスや宝石は、僕にとってそれほど心惹かれるものではなかっただけの話だ。
いや、本当は違うのだろう。香水独特の香りも綺麗に着飾ったドレスや宝石よりも、心惹かれる人がいるからだ。



「ココ!久しぶりだな!」
「お久しぶりです、マンサム所長」



なかなか見られないスーツ姿のマンサム所長は片手にテキーラのボトルを持って少しご機嫌のようだ。パーティの挨拶はとうに終わり、皆出された数々の酒や料理に目を奪われ堪能している。光を放っているかのように錯覚するその酒や料理を先程少しだけ口にしたが、久しぶりにこんな美味しいものを食べた気がする程だ。流石は一流料理店、彼女ならここにある全ての料理を平らげてしまうに違いない。
そこでふと気が付いた。彼女の、トリコの姿をまだ見ていない。そもそも、トリコはこのパーティに来るのだろうか。
今までもこうしてパーティに呼ばれていたのにも関わらず、ハントのため各地を巡っているトリコは顔を出さないということも多々あった。今回も、そうなのだろうか。一度確認すれば良かったのかもしれないが、各地を巡っているトリコに連絡をする手段はかなり限られてくる。携帯が繋がればいいがジャングルや洞窟といった電波の届かない場所に行かれては連絡の取りようが無いし、家に電話を入れたところでそれこそ家に居なければ意味が無い。昔、留守電に伝言を入れたのだが見ていないという一言に全てを諦めた。そのためトリコと連絡を取るのはほぼ不可能に近く、直接お互いが会いに行くというのが僕らの中での手段になっていた。面倒だと言われるが僕にとってそれは差ほど面倒とは思えず、寧ろ喜んだ。占いを使えばいいのだが、それはできるだけ使いたくなかった。



「今日もトリコは欠席何ですか?」
「あぁ、アイツか?来てはいるんだが……お、来たみたいだな」



周囲のざわめきが変わり、皆の視線が入り口に向いていた。マンサム所長もそっちを見ていたので僕もつられるように視線を向ける。



「……トリコ?」



ぽかん、と品も無く口を開けて入り口の方を見て呟く僕にマンサム所長は笑いながら酒を煽った。



「だから!なんでこんな格好しなきゃいけないんだよ!」
「んなのパーティだからに決まってんだろ?トリコ」
「トリコ超可愛いし!超似合うし!」
「なんっか窮屈なんだよなぁ……あ、ココじゃねぇか!久しぶりだな!」



たっ、とこちらに駆けてくるのは紛れも無く、会いたかったトリコだ。いつもは無造作に束ねられている少し長い青の髪は綺麗に整えられていて髪飾りと共に上げられている。確かこの前のパーティではスーツを着ていたはずだが、胸元の開いたオレンジのドレスに、白のミュール。どうやらうっすらと化粧をしているのか唇は光り、少しだけ柑橘系の香りが鼻を掠める。
所謂、ドレスアップというものか。しかし何故トリコが突然こんな格好をしたか謎が残る。いや、パーティなのだからドレスアップは必然なのだろうが、今までのトリコからそういったことをするとは思っていなかったためやはり疑問に思ってしまう。
少しの間見惚れているとマンサム所長の笑い声が鼓膜を揺らした。



「よく似合ってるじゃねぇか!」
「ったり前だろ!なんせこの俺がドレスアップしてやったんだからな」
「お兄ちゃんこういう時だけ役に立つし!」
「おいリン!どういうことだ!」
「ホントのことだし!」



どうやら、トリコのドレスアップにはサニーが関わっていたらしい。確かに彼ならやりかねない。そういえば以前、トリコに煩く言っていた気がする。どうやら今回、遂に痺れを切らしたのか強制的にトリコにドレスを着せたようだ。
まだ可愛らしい兄妹喧嘩から視線をトリコに向けた。いつものスーツ姿でも充分に映えるのだが、今日はまた一段と眩しく見える。いつもは心惹かれないそのドレスや宝石が、とても輝いて見えた。



「でも、本当に久しぶりだね。トリコ」
「今回はかなり遠くまで行ってたからな……」



今回はジャングルの奥地に行っていたようで、珍しい木の実がたくさん採れたと嬉しそうに話すトリコは相変わらず変わっていない。その笑顔はいつも僕を癒してくれる。
僕たちは決して恋人という甘い関係ではない。けれど恋人より、きっと固い絆があると思っている。庭に居たときから、今のようにそれぞれ違う道を歩いていても。それでも、欲を言ってしまえば僕はトリコとそういう関係になりたい。トリコが僕をどう思っているか、分からないけれど。
久しぶりということもあり、料理を片手に話しに花を咲かせる。こうして話すのは数ヶ月ぶりかもしれない。
ふと会場に流れていた曲が変わり、今僕たちがいるテーブルのある空間の隣のダンススペースに人が少しずつ移っていく。どうやらパートナーがいる人はそちらに移り踊りを楽しむらしい。このダンスはだいたい通例になっているが、僕は踊ったことがなかった。パートナーが居ないのが一番の理由だが、声をかけられたことはある。けれどあまり乗り気ではなかったし、どちらかと言えば見ている方が好きというのもあった。トリコと踊ろうかと考えたこともあるがスーツ同士で踊るのもどうかと思ったし、料理に夢中のトリコをわざわざ引っ張るのもどうかと思ったのだ。もちろん、出来たら踊りたいけれど。
しかし、今回はチャンスではないだろうか。今トリコはドレスを着ていて、コルセットに違和感があるのかあまり料理に手を出していない。あわよくば、と思いながら意を決してトリコに手を差し出した。



「トリコ、良かったら僕と一曲……どうかな?」
「え、あ……でも、ちゃんと踊れないぞ?」
「んなのココに任せりゃいいだろ」
「アタシ、トリコの踊ってるとこ見てみたいし!」
「う、ん。……じゃ、任せたからな」
「うん。さ、手を」



自分でもきざな仕種だと思いながらトリコの手を引いてダンススペースまで歩く。ざわりと周りが少しざわついたけど、まあ仕方のないことかもしれない。何せ美食屋四天王と呼ばれている僕とトリコが一緒に踊るなんて初めてだから。いや、そもそも踊ること自体初めてな気がする。踊り方は昔これくらい知っていろと教わったのだが披露する場も、自分から進んで踊ったことも無かったのだ。
そういえば、トリコはどうなのだろう。昔一緒に踊り方を教わっていたが、今までに踊ったことはあるのだろうか。僕の知らない、誰かと。子供みたいな独占欲に自分でも呆れてしまう。すぐ隣にトリコが居るのに。



「な、なぁ、ココ」
「どうしたの?」
「本当、踊ったの庭で教えてもらったときだけだから……」
「……ふふ」



本当、自分の独占欲に呆れてしまう。あの時から今まで誰とも踊っていないという事実を知っただけで、不思議と満たされてしまう僕はなんて馬鹿なんだ。嬉しい、けどね。



「なっ、何笑ってんだよ!」
「いや、実は僕もここで踊るのは初めてでさ」
「……大丈夫なのかよ」
「何とか、なるさ」



ダンススペースにたどり着き、トリコを引き寄せる。密着、とまでは行かないが互いに身体を寄せ合ながら身体に触れた。なるべくゆっくりと、けれどリードするため少し力を入れて踊っていく。同じステップを繰り返しターンをするだけの比較的簡単なダンス。そのためトリコは身体でダンスを覚えたようで、ぎこちなさがだいぶ消えた。余裕も出来たのか僕に笑いかけながら楽しいな、と微笑み合う。
ああ、綺麗だ。ターンをする度揺れて広がるドレスも。僕の身体に触れる引き締まった腕も。僕に微笑みかけてくれる笑顔も。トリコの全てが、本当に。



「ねぇ、トリコ」
「ん?どうした」
「あとで、会えないかな。隣のホテルに今、部屋を借りててね。飲まないか?久しぶりに」



この誘いは、言わば賭けだ。トリコがこの誘いに乗ってくれるなら、僕はこの思いを伝える。乗らなければ、諦めようと。極端だろうと笑われるかもしれない。それでも、僕は真剣だった。
踊りながらもトリコを見つめ、答えを待つ。トリコは少し顔を俯かせた。そのため表情は読めず、青の髪がゆらゆらと揺れる。
未来を見てしまえばいいのだろう。いつものように。けれど、それでは意味がない。この賭け自体も、そして僕も。直接、トリコから聞きたいのだ。



「トリコ……」
「なら、あとで、案内しろよ」



最上階のスイートルームというのは無駄に豪華だ。良い部屋をわざわざ用意してくれているのだろうけど、もっとランクを落としても構わないといつも思う。今日は、別だけど。
ワインと二つのグラスを持ちながら窓の外を眺めるトリコに近づく。最上階ということもあり、街の夜景が一望できた。きらきらと輝く光りはまるで星のようにも見える。窓ガラスに僕が映ったのか振り返ったトリコにグラスをひとつ渡した。赤いワインを注ぎ、グラス同士を鳴らす。
このくらいのアルコール度数、きっとトリコには物足りないと思ったが他に無いのだから仕方ない。それに、僕自身お酒が得意というわけじゃない。嗜む程度には飲むけれど、それくらいだ。



「……トリコ」



いつの間にか俯いてしまっていたトリコを呼ぶ。小さく肩が揺れて、持っていたグラスのワインが波打った。
グラスをテーブルに置き、グラスを持ったトリコの手に触れる。



「好きだよ、トリコ。君と、ずっと一緒に居たい」



弾かれたように上げられた顔は赤く、じっと僕を見つめた。
言ってしまった。後悔はしていないが、怖い。拒絶の言葉を聞きたくない。どうか受け入れてほしい。ただそれだけだった。わがままだと分かっているけれど、それでもそう思わずにはいられない。



「ココ……」



ぐっと唇を噛み締めながらトリコは小さく僕の名前を呼んだ。内心動揺していたけれど、なるべく表に出さないようにしてじっとトリコを見つめる。



「本当に、いいのか?だって、お前なら、もっと綺麗なやつも可愛いやつも、きっとお前のことを好きになるのに……本当に」
「トリコ……それって、つまり」



また俯いてしまったトリコの手からグラスを奪いテーブルに置いた。再びその手を、先程よりも強く握る。
自惚れているなんて百も承知だ。でも、この反応を目の前にして、自惚れないわけがない。今すぐにでも抱きしめてしまいたいけれど、トリコの口からあの言葉を聞くまでは駄目だ。
少し経つと俯いていたトリコの顔がゆっくりと上がった。差ほど飲んでいないはずなのに真っ赤になった頬がとても幼く見える。光る唇が震えながら、開く。



「ココ……好きだ」
「……トリコ、ありがとう。好きだよ、愛してる」



手を離し、ダンスの時のように身体を近づける。今度は、空間なんて出来ないように、文字通り密着して、抱きしめた。もう放さない。放してやるものか、この愛しい存在を。
恥ずかしそうに腕の中で大人しくなるトリコに、僕は心からの口づけをプレゼントした





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ココがプロポーズするような話が書きたかった。
反省は山のようにしている。








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