作家な銀さんと担当の土方さん。
キャラ崩壊。
昭和とかなんかそんな感じ。








「先生、先生」



かしゃかしゃと鳴る玄関の扉を叩く。中からの返事はなく、辺りも静かだ。時刻は三時。もしかしたらまた甘味を食べに出掛けているのかもしれない。あれ程原稿を取りに行く時間は家に居て欲しいと言ったのに。ため息をつきながら本当に留守か確かめるため、扉に手をかけた。すると扉は意図も容易く開き、日の光りで照らされる。まさか鍵をかけずに出掛けたのか。しかしその心配はなく、玄関には先生の靴がだらし無くうなだれていた。靴を直し、中へ進む。
静かな廊下がぎしりと音を立てる。やはり古い建物、けれどどこか落ち着く、そんな先生の家が私は好きだ。ぎしりと軋む音を耳で拾いながら一番奥の部屋の前で立ち止まる。かりかり、と。かりかりと紙と鉛筆が擦れ合う音が聞こえてきた。先生はこの中だ。まだ時間はかかるのだろうか。手首に視線を向け時間を確かめる。締切は明日の夕刻。まだ充分に時間はある。私は部屋の前で待つことにした。
暫くしてかりかりという音が止む。どうやら終わったようだ。背を正し、声をかける。



「先生、土方です」
「ああ、はいはい」



先生の声の後、ずるずると衣類が畳と擦れる音が襖の前で止まる。きっと床を這うように移動したのだ。襖が開けられ、視線を下に向ければ案の定そこに先生はいた。だらし無い、玄関にあった靴のようだ。靴を直した時のように先生の腕を掴み座らせようと試みる。しかし靴のようにすぐ立ち上がることは無く、力を入れ腕を三度引っ張るとようやく畳の上に座った。
先生の横を通り過ぎ、先程まで先生が使っていた机に向かう。古く年期の入ったその机の上には出来上がって間もないひとつの話が横たわっていた。少し黄ばんだ原稿用紙に敷き詰められた文字を見る度に言い表せない幸せが込み上げる。そっと、壊れるわけがないのだけれど原稿用紙をゆっくりと手に取り一句一句逃さぬように目を滑らせる。



「……はぁ」
「お、読み終わった?」
「はい」



気が付けば日は落ち辺りは暗く静まりかえっていた。痺れる足を庇いながら振り返り、先生と向き合う。白くふわりとした髪に、だらし無く着た着流し。どこか遠くを見ているような、少し濁った瞳。何も変わっていない先生を見ながら最後に会ったのは一ヶ月程前だったと思い出す。まるで何年も会っていなかったのではないかと思ってしまった。



「どっか訂正、ある?」
「ふりがなが違います。ここ」
「え、あー…」
「後で直しておきます」
「うん、いつもありがとう」



原稿用紙を持参した茶封筒に入れると、ひとつの湯呑みが差し出される。受け取り、一口。お茶のはずだが、少し甘い気がする。視線を先生に向ければ貰ったのだとひとつの紙袋を見せた。英国のものだそうだ。



「なんて言うかさ」
「はい」
「なんで君は、俺なんかが書く話を、そんな真剣に読んでくれるの」



先生は名のある作家だ。今、連載はひとつだけしか書かれていないが短編やコラムは幾つも手掛けている。私の、尊敬する人。
先生の頭のようにふわりとした言葉は全て軽く、ゆっくりと心に落ちてくる。あの濁った瞳の中にある一筋の光のように、心を突き刺す。決して堅苦しい話を書かれているわけではない。しかし、説得力というものなのだろうか、納得してしまう。目茶苦茶なことが並べられているように見えて、一番大切な何かを見せてくれる。
そんな話を書かれる人の話を真剣に読まないわけがない。なんか、と卑下する先生の態度に少しだけ腹が立ち、先生の作品の素晴らしさを余すことなく伝える。するとだんだんと顔を赤くし、ついに俯いてしまった。ふわりと跳ねる髪の隙間から見えた耳たぶは真っ赤になっている。



「あ、うん、分かった、分かった、から」
「なら良かったです」



どうやら全て伝わったようで、私は満足しながら少し甘いお茶を飲み干した。





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趣味全力投球。
キャラ崩壊もいいとこですね。








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