「兄さん、それだよ」



ふらりと立ち寄った雀荘で面子が足りないと声をかけられた。卓を囲んでいたのは中年オヤジに大学生くらいの男と、少し長めの白い髪が印象的な初老くらいの女性だった。少し驚きつつも卓につく。中年オヤジと大学生は良く分かる。仕事がないのか授業をサボったとか、その辺だろう。でも、髪の白いその人だけこの場所にいるのが不思議だったのだ。白シャツに、下は見えないが腰辺りに見えるものから青いスカートを穿いているんだろう。そんな、とても博打に縁のなさそうな人が何故ここにいるのか。初老、と言ったけど正直もう少し若いようにも見える。たぶん、落ち着いている感じがしたから年齢が上の方だと思っただけだ。そんなことを思いながら牌をとっていく。



「なあ、少し賭けをしないか?ただやるってのもつまんねぇだろ?」



白い髪のその人の一声で、この麻雀は賭け麻雀になった。といってもここは普通の雀荘だ、賭け事はご法度。もちろん金を賭けるなんてもっての外。するとその人は笑いながら金は賭けないよと言った。その代わり、トップのやつがケツのやつになんでも命令出来るという、まるで餓鬼みたいなことを言い出した。なんとなく、見た目と反して結構子供みたいなことを言うんだなと少し笑いながら俺はそれを了承した。他の二人も特に反論もなく、むしろ楽しそうだ。何も無いより、こういった方が楽しいのは俺も分かる。出来ることならトップになって煙草でも奢ってもらうかと考えながら、勝負が始まった。



「ロン。跳満だ」



何時の間にか俺の今の目標はもうトップじゃない、いかにケツにならないかになっていた。というのはたぶん俺だけじゃない。中年オヤジにサボり魔大学生も、だ。何故ならこの勝負、白い髪のその人の一人勝ちと言っても過言じゃない。勝ち続けている。俺たちの点棒はまるで吸い寄せられるかのようにその人に集り、気づけばハコ寸前まできてしまったという状況。そして、ついに決着がつく。



「さて、兄さんには何をしてもらおうかな」



気づけば卓には俺と白い髪のその人だけだった。あとの二人はさっさと退散したのだろう。これに懲りて真面目に仕事や勉強に励むのかもしれない、と思いながら次の言葉を待つ。しかし、見事としか言いようのない勝負だった。ほぼ一人勝ち。いきなり裸単騎をやられたときは何事かとも思ったが、それで見事に勝ってみせたのだ。本当に、何者なのだろうか。



「で、俺は何をすればいいんだ?」
「そうだな……あ、今何時だ?」
「何時って……えっと、うわ、9時だ!」



今更だが時間のことをすっかり忘れていた。だからと言って俺になにか予定があるわけじゃない。バイトなんかもう何ヶ月とやっていないし、まず働けない。この傷だ、雇いたいなんてやつは居ないだろう。そんなことより、今俺が気にすることはこの人が俺に何を言うかだ。まあそんな大変なことではないだろうけど、やはり何をするか分からないというのは不安を駆り立てる。



「よし。兄さん、決めたよ。これ、運んでくれないか?」
「鞄……?」
「ああ、老体にはちときついんだよ。それなりに重いからな」



さっきまで学生が座っていた椅子に、床に置いていただろう鞄を乗せる。音からしても、確かにそれなりに何かが入っているようだ。中身は全く検討もつかない。しかし、何故雀荘にこんな荷物を持ってくるのか分からない。不思議そうな顔をしている俺がおかしいのか少し笑って頼んだよと鞄を俺に渡す。



「どこまで持っていくんだ?」
「ホテルだよ、そんなに距離は無いはずだ……そうだ。兄さん、名前は?」
「え、あ、伊藤……伊藤開司。あんたは?」
「赤木、だよ。さあ、行こうか」





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カイジと女の子赤木さん。
この組み合わせが好き。ホント好き。








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