ぷつりと赤い玉が指に浮かぶ。だんだんと、風船みたいに膨らみついに破裂した。中から同じ赤の液体が指を伝ってテーブルの上に落ちる。血が、流れている。
「な、おい!血!」
「分かってるって。カイジ驚きすぎ」
差し出されたティッシュ箱から二枚取ってテーブルを拭き、指に当てる。血が出たのは右手の人差し指だった。ティッシュを外すとそこには鮮やかな赤が見える。指にはべったりとその赤が広がっていて、止まらない。またティッシュを当てる。
「ほら、指出せ」
「ん?……ん」
カイジの言う通りに指を差し出す。消毒液で傷と血を洗い絆創膏を貼られた。ぐっと指に力を入れ、左手で傷の近くを押すと絆創膏に赤い染みが出来る。軽く頭を叩かれた。
「何すんのさ」
「せっかく手当したのに何すんだはこっちの台詞だ、馬鹿」
頼んだ覚えはない。お人よしなカイジが勝手に勘違いをして手当をしただけじゃないか。俺は関係ない。手当された人差し指を見る。なんだか酷く頼りなかった。
「てか痛くねぇの?かなり深いぞ。紙で切ったくせに」
「……痛いっていうのは分かるよ」
ただ痛みがよく分からない。痛いっていうのは傷が出来て血が出ることだ。みんな俺が怪我をして血を出すとこっちが驚くぐらい慌て出す。痛いか痛くないかを執拗に聞いてきて鬱陶しい。だから俺は血が出ていたら痛いんだと理解した。けれど、痛みは分からない。例えばじくじくと、じんじんと。そんな痛みを感じたことは余りない。感じてきたことがあるのか記憶すらない。痛みを知らない。
「ただ、理解してるだけ」
「……で、今は痛いのかよ」
「クク、カイジが手当してくれたから痛くないよ」