時間が迫ってたのは知っていた。それでもここから、この時代から離れたくなかった。今とは違って不便だらけなこの時代から離れたくなかったのだ。高いビルもない電線もない青空が意外にも綺麗だったから。
「時間でしょ?帰らなきゃ」
アカギはやんわりと子供に言い付けるように俺を現実に引き戻す。優しいその言葉とは裏腹な涙が俺の傷をなぞるように滑り落ちた。そんな残酷な言葉を発したアカギはただただ笑みを浮かべている。お前は悲しくないのか?寂しくないのか?苦しくないのか?今にも張り裂けそうな俺の胸を掴んで放さない苦痛がアカギには無いのだろうか。昔の人間は情に厚いと聞いた話は嘘だったのか。
「ほら、もうすぐお別れだ」
「いやだ……アカギ、俺は」
アカギはただ笑みを浮かべているだけだった。目の前が涙で滲む。もしかしたらもうアカギを見ることが出来なくなるかもしれないのにもう視界にアカギの姿をはっきりと写すことが出来なくなっていた。頼むから涙よ止まってくれ。そんなことで止まる涙なら涙じゃない。止まらない涙を手の甲で拭う。
「さよならだよ」
頭を殴られたような感覚が襲う。目を開けることも億劫になるくらいの衝撃だ。駄目だと思いながら前にいるはずのアカギに手を伸ばす。せめて、最後に。そう思いながら手を伸ばすけれどアカギには届かない。せめて、最後に伝えたい。触れたい。最後になるのなら尚更。会えるかもしれないという希望は抱かない。今、この瞬間しか俺にはないのだ。
「あ、アカギ……俺、お前のこと」
「……カイジさん、じゃあな」
伸ばした手を掴まれ唇に何かが触れた。目を開けるという行為にこんなにも時間がかかったことはない。目を開くとそこにはアカギがいた。掴まれた手をどうにかしてアカギの背中に回してやろうと考えたが目の前はいつの間にか白一色になる。
「好きですよ」
そう聞こえたのが嘘なわけないと思いながら俺は泣いた。
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時かけパロみたいなお話でした。