女体化注意!








子供みたいだと思い口元を緩ませるだけの笑みを浮かべると森田は顔を真っ赤にさせた。初だからそんな顔をしたのか、又は怒りからなのか知らないが。ともかく頭に血が上ったのに変わりはないだろう。単純だ。だから、私はこの男を買ったのだ。



「な、に笑ってんですかっ」
「べつに、笑ってなんかいないさ」
「あんた、この状況を分かってるだろ?」



いつも使っている寝室のベッドに横たわり、森田に両手を掴まれ拘束されている。力には自信がある方だが森田のように若く、体格のある人間にはどうにも勝てそうにない。それに、大切な仲間だ。怪我をさせて仕事に支障が出来てしまっては上司である自分に申し訳ない。だから抵抗もせず、大人しくしているのだ。手首に体重はかかっていない。まして掴まれているのにも関わらず痛みもない。逃げようと思えばいつでも、逃げられる。



「……俺を馬鹿にして楽しいのかよ」
「おいおい、馬鹿になんてしてないぞ」
「ならどうして、抵抗しないんだよ!」



抵抗しない方がお前はいいんじゃないのかと思ったが、口を閉じる。言ったところで今の森田に届くとは思わないし、たぶん森田は後悔するだろう。どの道このままだと後悔するのだけれど。じっと、黙りながらお互いに見つめ合う。ついに耐え切れなくなったのか森田が先に視線を外した。これくらいで音を上げちゃあ女は口説けないな。



「あんたは……あんたはそれでいいのかよ」
「いいも何も、今の私に選択肢はないだろう」
「本当に……」



泣きそうな面だった。後悔しているのか嬉しいのか怒っているのか笑いたいのか、判断はしない。それでも眉を歪め潤んだ目が泣いているのだと告げる。流れていない涙を拭いたくなるのは、きっと私の中にある母性本能というやつだろう。まだ残っていたのかと驚きながらもその流れていない涙を拭うことは出来ない。手は塞がれ、森田を後悔させる。口を塞がれた。かさついた唇は恐ろしい程冷たい。その隙間から、温かい舌が私の唇をそっと舐める。温度差に驚き身体が揺れた。



「しかし、不粋だな」
「何が……」
「無駄に甘ったるいキスだから」



まるで傷付いた、とでもいうように驚いた森田は私の後頭部を掴み荒々しく唇を合わせてきた。腹が立ったのか悲しいのか、息が上がっている。舌が唇を割ってきても抵抗はしなかった。けれどそれに応えようともしなかった。それを森田は望んでいないだろう。今、この状況で。だから応えない、ただされるがまま。口元を濡らす唾液を不快に思っていると頭を押さえていないもう片方の手でシャツを開けられていく。冷たい空気に直に触れ、また身体が揺れた。これでいいのかとも思ったが、これは仕方のないことなのだ。胸に走る痛みに目を閉じて、時が経つのをただ待った。



「……ぁ」



気付けば眠っていたのだろう、窓から朝日が差し込んでいた。身体を起こして部屋を見る。いつも通りの部屋だった。変わりなんて、一つもない。ふと自分の姿を見ると、昨日のことなど何も無かったかのように着替えられていた。昨日のあれは夢だったのかとさえ思えるくらいだ。それでも身体に疲れが残っている。その身体に鞭を打ち、シャワーを浴びるためバスルームに向かう。途中、森田の部屋の前を通ったが物音一つしなかった。きっと出掛けているのだろう。服を脱ぎ、鏡を見た。



「……く、ふふ、ははっ、あいつは、本当に」



胸に残る赤い一つの点。その点は調度左胸の、心臓の位置にあった。これで射抜いたつもりなのだろうか。変わらない部屋も着替えも、胸の痕も。とんだ甘ちゃんだ。けれどそんなあいつを叱れない自分も、とても甘ちゃんだ。








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