アカギはただの餓鬼なのだといまさらながら俺は自覚した。
「おい、アカギ」
「なんですか」
「箸くらいちゃんと使えよ」
茶碗と箸を手に持って飯を食べているアカギに言う。アカギは何を言ってるのか分からないとでもいうように首を傾げ、また飯を食べた。その態度に苛立ちを覚えながらも俺は使っていた箸でアカギを指す。
「矢木さん、箸を人に向けるあんたが言うの?」
「うるせぇよ、箸も持てない餓鬼に言われる筋合いはねぇんだ」
アカギの箸を持つ手はなんとも不思議なものだった。握りこぶしを作っているようにしか見えないその手で、器用なまでに箸を使っている。
「箸なんて掴めればそれでいいでしょ」
「それは餓鬼の発想なんだよ」
箸の使い方一つで人は人生を狂わすことも出来るという真実をまだ知らないアカギは、本当にまだ餓鬼だ。そう思いながら箸はこう持つのだと自分の手をアカギに差し出す。
「変な持ち方」
「お前に言われたくないな」
「箸の持ち方なんて、あるんだね」
アカギがまともな餓鬼でないことは出会ったときから知っていた。命を賭けた賭け事に恐怖を抱いている様子も見せず、それどころか生き生きとしているようにも見える。そんなやつが当たり前に学校に行き家族の待つ家に帰るなんて、想像する方が無理だ。
「ほら、ちょっとこっちこい」
「まだ食べてるよ」
「食べる前にやらなきゃ意味ねぇだろ」
アカギを自分の前に座らせ、箸を正しい持ち方で手に握らせる。小さな手だった。骨張っていない、小さな手。この手で一体何を掴み放してきたのだろう。考えても無駄なことだと知りつつもどこか頭の隅にある疑問や興味を押し止め、正しい箸の持ち方をアカギに教えた。
「やりにくい」
「そりゃそうだ、お前が今まで間違って使ってたんだからな」
「……ま、いいや。どうせ慣れるだろうし」
アカギはまたさっきと同じ場所に戻り飯に手をつける。使いにくそうに箸を動かす様は、それなりに年相応に見えた。
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なんかすごいパラレル。
小さいときってすごい自己流の箸の持ち方してたよね。
今絶対あの時の持ち方出来ない。