窓にかかるカーテンの隙間から光が見えた。たった一瞬だけの光。そう思った瞬間に次はゴロゴロと呻るような音が辺りに響く。雷だった。



「降るな、こりゃ」
「そうですね」



ホテルというにはお粗末なラブホテルの一室に俺と赤木さんはいた。そんな関係ではないのだけれど雨が降るだろうと言った赤木さんに言われるまま雨宿りのために急遽ラブホテルに足を踏み入れたのだ。辺りはとにかく薄暗く汚いピンク色。こんなところでするのかと思うと吐きそうになる。べつに赤木さんとするわけではないのだから関係は無いのだけれどそう一瞬でも考えた自分にさらに吐き気がつのった。



「吐くなら」
「え?」
「吐くなら便所行けよ」
「……平気です」



息を吐いてベッドに雪崩れ込む。ザアザアと雨が降ってきた。辺りは雨の音だけでとても静かなのにとても耳障りだ。苦痛というのはこういうもののことを言うのだろうか。ああ違う。納得なんてしてはいけない。苦痛がこんなにも心地の好いものであるはずがない。あってはいけないのだ。苦痛というのは文字の如く。ああ下らない。



「降ってきたな」
「そうですね……」



ベッドが軽く揺れた。赤木さんかと思ったが雷のせいらしい。自然は偉大だと誰かがそう言っていた気がする。俺はその意味が分からない。偉大なものなんて俺のすぐ近くにあるというのにみんなそのことを知らない。優越感に似た感情はこういうものなのだろうか。それともこの感情に名前はないのか。働かなくなっていく頭に苛立ちを覚えた。ふと煙草の匂いを感じて体を起こす。目に映ったのは窓に寄り添うようにして煙草を吸う赤木さんがいた。煙草の銘柄なんて僕は知らないけれど赤木さんが吸っているのはマルボロという銘柄だということだけは知っていた。



「やまないな」
「……赤木さんはこっちに来ないんですか」
「吐きそうになってるやつの近くで煙草は吸わねぇよ」



ああそうだこの人はそういう人だ。優しいのにどこか違う。優しさのベクトルが違うのだ。まるで旨いものを食べているかのように煙草を吸う姿がまぶたに焼き付いて離れない。離してはいけないとでも言うようにまぶたは深くその姿を焼き付ける。いっそまぶたが解けてくっついてこれ以上のものを映し出さなければいいと訴えているかのようだった。なら眼球を取り出そうか。僕は赤木さんと一緒でどこかベクトルが違うのかもしれない。だから赤木さんに近づけない。



「寝るのか」
「ええ、寝ます」
「おやすみ、ひろ」





きっと今夜いい夢を見ない





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電波的なのを目指して挫折。+よりの×。むしろ矢印。
前作に引き続き赤木さんみたいになれない自分に鬱なひろの話になったという。
ひろは赤木さんみたいになりたいけど別に赤木さんは誰かになりたいわけじゃないしそんなこと考えてないし、つまりその考え方の差がひろと赤木さんの差なんじゃないかと思って書いたら撃沈しただけ。
反省が長い。








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