「俺のことを好きだなんて人間は居ないのさ」



和也のその言葉には今まで感じたことのない哀愁と呼ばれるものを感じた。不思議だ、今までこんな弱々しい和也を見たことがない。槍でも降るかと思った。



「意味分かんねぇ」
「ギャンブルだと頭の回転早いのにね、カイジは」
「うるせぇよ」



開けば憎らしい言葉を吐き出すその口は、笑みを浮かべながらもどこか嘲笑じみていた。今日、和也はどこか調子が悪いらしい。贅沢なものばかり食べているからだろう。贅沢は身体に毒だと誰かが言っていた。たしかその誰かは俺と同じような貧乏人だったから、きっと厭味やひがみだったのだろうけど。



「言葉のまんま。俺の父さんはあの兵藤会長で、俺はその息子。みんなペコペコ頭を下げて調子がいいんだ。だからって本当に俺のことが好きかと言われれば、もちろん違う。俺に近づくやつらはみんな何かしら考えてやがる。媚びを売って何かを得ようと企んでいるやつらばっか」



弱々しい声色で言う和也を俺は、まるで映画でも見ているかのような感覚で聞いていた。まるで現実味がない話。フィクションの世界。そう感じたのだ。たしかに和也の性格は正直褒められたものではない。しかし、同じく俺も褒められた性格じゃないが俺を好きでいてくれた人はいた。たしかに、いたのだ。紛れも無い事実として。



「いいね、カイジは。俺はそんなの一度も無いよ」



薄い色に覆われた眼鏡に光が反射し、和也の目が隠されて表情は分からない。人の表情は顔の筋肉ではなく目が物語っていると誰が言っていた。嘘か本当かは分からないが、それがもし本当なら今の和也の表情は分からないことになる。



「いいな、羨ましいよ」



俺に無いものの全てを持っている和也が俺を羨ましがるなんて、とんだ笑いぐさだ。なんて変わったやつなのだろう。これだから金持ちのボンボンは分からない。



「ねえカイジ、カイジは俺のことどう思う?こんな俺をかわいそうだと思う?」
「かわいそう?どうしてだ?」



たしかに自分を好きだという人間が一人もいなければ、他人はみんなかわいそうと言うのだろう。しかし俺は、べつにそんな感情は抱かなかった。そもそも、俺がそんな感情を思い浮かべることが間違っているのだ。そして、和也が俺を羨ましいと思うことも。全て、間違った考え方。



「……カカカ、すごいねカイジ」
「はあ?何が?」
「その考え方。俺、そんなカイジ好きだわ」
「俺はべつに、こんな考え方好きじゃねぇよ。こんな考え方で今まで嫌な野郎って言われてんだからな」



カイジらしいよ、と和也に言われたがもう意味が分からなかった。和也曰く、俺はギャンブルでしか頭の回転が速くないらしいから。





ふぅん、そっか。








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