「ただ戻りたかった」



伊佐奈は俺に担がれながら譫言のようにそう言った。人間に戻りたかった、ということだろう。鯨の化け物に呪われてから、本来の人間の姿を取り戻すために今まで水族館を大きくしてきたのだから。しかしそれは叶わなかった。魔力の歪みからあの動物園の園長にたどり着きながらも、肝心の元に戻るための手掛かりは無く。そして倒されてしまった。きっと、これからこの男が元の姿に戻ることは一生無いだろう。
俺はこの男と共に海に行く。悔い改めさせるため、海で生涯を終わらせる。あの人間が言っていた、殺すなと。はじめは食い殺そうかと考えたが、それでは意味が無かった。悔やむ前に死んでしまう。だから俺はこの男を海に連れて行く。



「もう一度歩きたかったんだ、あの地面を、自分の足で、なにも身を隠さずに、堂々と。ただそれだけだったのに、どうして元に戻らないんだ、この身体は。今までたくさんの金と時間を使い、元に戻るためにしてきたのに、どうして」



伊佐奈はただそう言った。きっと今まで思っていたことだろう、それをまるで最後だからとでもいうように繰り返し言う。



「ただ、人間に戻りたかっただけなのに」



その言葉は海に消えるかのように、誰にも届くことは無いだろう。





----------

オーマガ買ったよ読んだよ記念。
まあ買ったのかなり前だけど。
館長好きだ。えげつなくても好きだよ!








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -