心臓がずきりと痛んだ。もう心臓はないはずなのにそこには確かな痛みがあった。ずきずきとただ痛む。目の前の光景を見てから。



「アレクセイ、団長?」



泣いていた。声もださずただ涙を流していた。あのアレクセイ騎士団長が。自分の目の前で無防備に。



「どうして」
「考えていたのだ。どうしたら君の気持ちが分かるかを」



なんてくだらないことを考えていたんだろう。そんなことをしているなら今後の復興について案をまとめていくべきだ。そもそももう自分は道具であるべき存在。気持ちなんてあるはずがない。ならこの心臓の痛みは?この胸の痛みは?



「たくさんの騎士が死んだ。生き残ったのは君だけだ。正確には違うが、それでも戻ってきたことに代わりはない。……君の足元には、たくさんの死体があるのと同じだ」



全身が熱くなった。最後まで戦った仲間を死体だと?ふざけるな。あいつらは死体なんかじゃない。立派な騎士だ!叫びたい声を抑え俯いた。この人を視界に入れてはいけない。アレクセイ団長は続ける。



「しかし、それは私も同じなのだ」



はっとして顔を上げる。アレクセイ団長は涙を流しながら自分を見ていた。しかしさっきの言葉はどういうことだ?



「私は皆を見殺しにしたと言っても過言ではない。皆は現地に赴き騎士としての役目を果たしたというのに……私は、ここにいることしか出来なかった。彼らの最後を見ることすら無く、ただ、ここに」



そこまで聞いて思った。この人も一人なのだと。目に掛けていた隊も無くなり仲間であった騎士の死体ばかりを目にする。今までにもたくさんの騎士がその役目を果たし死んでいった。この人は一体幾つの死体の山の上に立っているのだろう。きっと自分とは比べものにならないんじゃないだろうか。そんなことを流れていく涙を見ながら思った。





亡骸








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