三月になる。いわゆる、卒業シーズンというやつだ。別れを惜しみながら次のステージに旅立つ人を見送り、そして勇気付けるらしい季節。そんな卒業シーズン、ついに土方さんが高校を卒業する。
「なんでぃ、留年してなかってんですかぃ」
「ふざけんな、誰がんなマヌケなことするか」
「それもそうですねぃ」
桜の蕾なんて一つもない、見ていると肌寒くなりそうな桜の木の向こうにある空を見た。真っ青で、白い雲が浮かんでいる。これなら今度の卒業式も晴れるだろう。めでたいことだ。
「大学あっさり推薦で受かりやがって土方このヤロー。もっと苦労すればよかったじゃねーですか?」
「受かったもん勝ちなんだよこういうのは。ま、行きたいとこでよかったがな」
土方さんはこの春、隣の県の大学に進路が決まった。電車で通える距離なため、実家暮し。一人暮しをするっていう先輩が、確か数人いたような。自炊とか出来るのかどうなのか、知ったことではないが。
「土方さん」
「なんだよ」
「……卒業、おめでとう、なんて言いやせんぜ」
何故卒業してしまうのか。そんなこと決まっているのに、何故か許せない。離れて行くことが、許せない。まるで餓鬼だ。いや、餓鬼そのものか。
「ああ、知ってる」
「薄情なやつだって言わねぇんですね」
「何年の付き合いだと思ってんだ、てめぇの考えてることなんかお見通しだ」
「そいつぁ、おっかねぇや」
どちらともなく絡めた指が冷たい。もう春だと言ってもやはり寒いと思いながら、卒業式にはカイロを持って行こうと誓った。
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書いたのは一応三月です。