今日、初めて人を斬った。ずっしりとした肉の感触と温かい血。斬った刀はその血と脂でぎとぎとと光っていた。手入れすんの面倒だなァと思いながら一度刀を振って血と脂を落とし、鞘に入れる。



「そ、ご」



少し顔を伏せながら後ろを振り返る。俺と同じように刀を持った土方さんはただ呆然とこちらを見ていた。刀は、抜かれていない。俺が先に抜いて、斬ったからだ。
瞳孔が開きかけた目を見開かせ、俺を見ている。何とも間抜けな顔だが、どこか泣きそうだと思った。
何であんたがんな顔をすんでィ。おニューの刀がきったねェ血で汚れなくてよかっじゃないですか。



「帰りましょうや、土方さん」



ゆっくりと土方さんに近づくと、自然と目が合った。覇気のねぇ目だ。何で、んな目で見てんだか。



「ねぇ、土方さん。何、後悔してんでィ」



江戸に行くと決めた時から決まっていたことだった。人を斬ることに、抵抗が無いわけじゃない。でも斬らなきゃいけない。斬るしか道は無い。それを今更覆すことは出来ないし、俺はしない。例え土方さんに頼まれても。
知っていた、土方さんが俺に人を斬らないでほしいことを。人殺しになってほしくないことを。でも俺たちは江戸に出て、やらなきゃいけないことはまさに人殺しのようなもので。でも、それでもって、土方さん、あんたは少なからず思ってたんだ。俺が人を斬らなければいいって。ま、もうその願いは叶いませんが。
なにせ、あんたの目の前で斬ってやったんだから。それを、その希望を打ち砕いたのを俺は悪いとは思わない。だってそれが俺たちだからだ。でも、そんな顔されるたァ、思わなかった。



「土方さん、俺は後悔なんかしてねェですぜ。まあこれで堅気じゃ無くなりましたが、それで結構。これであんたらと同じ道を歩ける」



どこか一線引かれている気がしてた。人を斬った斬ってないっていうだけで。いや、普通なら一線引かなきゃいけない一線なのだけれど、俺はそいつが許せなかった。
それに、いつかは斬るんだ。



「あんたは俺が殺すんだ。なぁ、土方さん」



その予行練習だと思えば、べつに何ともねェや。





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