背中に出来てまだ新しい傷を指でなぞられる。つう、と。感覚は辛うじてあったがその傷より指の幅が広かったからだろう、傷の縁からはみ出た指の感触で傷をなぞられていると分かった。斜めに、背中にある刀傷。背中に傷を作られたのは感に障ったが体中傷だらけの分際で今更何を言っても遅かった。俺はそこまで強くはなかっただけの話。



「痛いですか」
「もう塞がってる」



佐々木の声が背中から耳に入る。何が楽しくて傷を触るのか俺にはよく分からない。自分がつけた傷を今更確かめる必要があるのだろうか。後ろに振り返り佐々木と視線を合わせる。それから視線をずらし、顔から首へ、そして胸へと視線を動かした。そこで止まる、視線。左の、胸より少し上に出来た刀傷。俺が刺した、傷。



「お前は」
「はい?」
「お前は、痛くないのか」



佐々木が俺の背中の傷に触れたように、俺も佐々木の胸の傷を指でなぞる。そこだけざらりと膨れた傷はなぞってもあまり楽しいものではなかった。



「そうですね、傷は塞がっているようですし」



そう言って佐々木は俺の手を取りながら自分のほうに引き寄せる。佐々木の胸にもたれるようになった俺の視線の先にはあの傷があった。そこに舌を這わせながら背中に回される佐々木の手の感触に体を震わせる。ぺたりと、あの刀傷を覆うようにして傷の上に手を乗せ再びなぞった。むず痒いその感覚がいらつき舌を這わせていた傷に歯を立てる。しかし佐々木からは何の反応も返って来なかった。



「やっぱり、そうか」
「何がです?」
「感じねぇか」



もたれた胸から頭を持ち上げ佐々木と視線を絡めながら血が流れるその傷へと誘導した。佐々木はそのことに驚きもさず、触れていた俺の傷に爪を立てる。何かが剥がれた音がして、背中から血が流れる感触に眉を寄せた。



「私、どこか感覚が鈍いようでして」



薄く笑う佐々木は特に何も無い、とでも言うように俺に口づけた。








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