人はこの黒い感情を恋と呼ぶらしい。
例えばあのヤニ臭い白衣に噛みついて離してやらないと思ったり。例えばあの胡散臭い眼鏡を割ってやりたいと思ったり。例えばあいつの皮を剥いで心を奪ってやろうと思ったり。
恋っていうのはこんな物騒なものだったのだろうか。



「……えぐい」



誰も居ない教室はとても静かだ。椅子を動かす音すらとても大きく聞こえる。
忘れたノートを取り出してふと教室を眺める。夕日のせいか辺りが赤く染まっていた。
そう、例えばこんな夕日みたいな光だ。あたたかく、けれどどこか切なくなるような。そんな感覚が恋ではないのだろうか。
沈んでいく夕日はとても綺麗で見惚れてしまう。眩しいけれど目を背けることはできない。



「お。土方じゃねえか」
「銀八……」
「先生を付けろ、先生を」



朝見たときはまだ張りがあった白衣はしわくちゃになっていてみすぼらしい。そもそも国語教えるやつが白衣を着る必要があるのだろうか。
ふと、そういえばタバコを吸っていないことに気が付いた。それでもヤニ臭さはするが、代わりにコーヒーの匂いがする。甘党ということを知っているからかコーヒーの匂いにどこか戸惑いが浮かぶ。



「夕日か……綺麗なもんだな」
「……あんたでも夕日見て綺麗とか思うんだな」
「お前は俺を何だと思ってんだ。仮にも国語教員だぞ?夕日見て綺麗っつうだけの感性はあるっての」



そんな言葉を交わしているうちに夕日は沈んでしまった。辺りはもう暗く、早く帰らなければならない。
ノートを鞄に仕舞って銀八の横をさよならと言いながら通り過ぎようとした。



「気ぃ付けて帰れよ」



帰り際に触れられた髪がやけに気になりぐしゃりとそこだけ握りしめる。
例えばあの声を他のやつに聞かせないように喉を潰してしまいたいと思うのも。例えば髪に触れた手を握り離してやりたくないと思うのも。例えば、その人のすべてを奪ってやりたいと思うのも。





これが恋だと誰か証明してくれよ





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3Z。
独占欲はどっちも強そうだけど今回は土方で。
恋は薄暗くて毒々しいピンク色希望。








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