ここは愛の街。



「お姉さん、ちょっと」



バイトに行く途中に声をかけられた。鞄の中に音楽プレイヤーがあったらきっと気がつかなかったと思う。振り返ると白髪の男の子が居た。白いシャツと黒いズボン。学生服だ。



「なに」
「ここ、知ってるかなって」



差し出された紙はバイト先のチラシだった。手の平サイズの小さな紙に場所やメニューが書かれてあるチラシ。たまに店の前で配るのだ。あと店内にも少し置いてある。お客さんに持って帰ってもらって集客を図るのだ。効果はあまり期待出来ない。噂話のほうが期待出来る。



「バイトしてるから、知ってるよ」
「ついて行っていい?」



どうぞと言って歩き出す。男の子は5歩後ろを歩いてきた。しかし不思議だ。ただ今夜の7時。男の子がこんな時間に一人なんて。けど街は明るいからいいのかもしれない。気付けば店の前に来ていた。店はもう開いている。男の子は表から私は裏から店に入る。着替えて店に出た。



「お姉さん、さっきはありがとう」
「あ、さっきの」



カウンターでバタピーを小皿に出していると白髪の男の子に声をかけられた。少し暗い店内でも男の子の髪は十分に目立つらしい。なにか注文するのか聞けばいっちょ前にお酒の名前を言ってきた。そんな高いお酒はここに無いし未成年なのに。



「未成年にお酒は出せません」
「ケチ」



かんに触ったのでオレンジジュースとバタピーの残りに厨房でちょっと型が崩れたパンケーキを拝借して男の子に出す。私はケチじゃない。ちなみにオレンジジュースとバタピーの料金は私の給料からマイナスだ。型が崩れたパンケーキは廃棄物になっていずれ誰かのお腹の中に入るからタダ。



「一人で夕飯でも食べに来たの」
「いや、違うよ」



変な男の子だと思った。こんなところに一人で来るなんて。でもわざわざ一人で来たのには何か理由でもありそうだ。



「待ち合わせとか」
「正解」



当たってしまった。テレビ的には0点。最低だ。これはテレビじゃないからいいんだけど。半分以下になったオレンジジュースを注ぎ足して他のお客さんから注文されたお酒を入れる。ジュースみたいに甘いお酒だ。色はピンク。注文したのは綺麗なお姉さんだ。爪もピンク色でグラスを握るのを見ていると爪がお酒に溶けたんじゃないかと思う。



「お姉さん、お願いがあるんだけど」
「パンケーキはそれでおしまいだけど」



違うよと男の子は言ってポケットから茶色い封筒を出した。少し分厚め。手紙かと思ったけど宛名も切手も無かった。封筒は役目を果たせるのだろうか。でも封筒の役割を私ははっきりとは知らない。中身が見えなければすべて封筒なのだろうか。私は男の子から封筒を受け取った。私はどうすればいいのだろう。



「手紙ならポストに入れなよ、あの赤いやつ」
「残念だけど、それは手紙じゃないからポストには入れられないんだ」



ポストは手紙を入れるための物。だからそれに入れられないというのはこれが手紙じゃない証拠。もし封筒が手紙を入れるためだけの役割だったら封筒が少し可哀相だ。自分の役割を果たすことなくごみ箱にぽいされてしまう。短くてはかない封筒の一生。絶対に売れない映画一位を記録できそうだ。



「もうすぐ俺を探してここに来る人が居るから、その人に渡してよ」
「自分で渡さないんだ」



男の子は残ったバタピーを口に入れて店を出て行った。それから残ったオレンジジュースを飲もうか悩みながらパンケーキとバタピーの皿を片付ける。私のお金でオレンジジュースが男の子に飲まれて残ったのだからこれは私のオレンジジュース。つまり飲んでもいいんじゃないだろうか。



「すみません、少しいいですか」



オレンジジュースについて葛藤していると大きな男性が居た。少し驚きつつもどうぞと答える。どうやら人を探しているようだ。



「白い髪の男の子を探しているんです」
「もしかして、学生服の」



大きな男性はそいつだと言った。男の子はこの人に封筒を渡してくれと言ったのだろうか。本当にこの人なのか疑問に思いながらもポケットに入れていた封筒を取り出した。とりあえず男性をさっきまで男の子が座っていた席に座らせる。



「これは……」
「たぶんあなただと思うので、渡します」



すると大きな男性は封筒を握りしめ涙を浮かべた。まさか泣かれるとは思ってもみなくて咄嗟におしぼりを渡す。冷たいタイプのおしぼりだからすぐ目に当てられるはずだ。震える声でお礼を言う男性に私は男の子の残したオレンジジュースを差し出した。残っていたオレンジジュースはコップの半分しか無かったけれど男性はそれを有り難そうに飲み干した。ふと男の子がバタピーを食べた時を思い出す。



「あの人はいい人なんだ。だから俺は離れる。わがままは、言えないんだ。それは今までの感謝の気持ち」




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南郷さんとしげるの話。
南郷さんはいい人。
しげるはいい子、のはず。
封筒には何を入れたのか。
金だろうけど。








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