目を覚ますと見えたのは情けなく泣き腫らした目を閉じて眠っているカイジさんだった。二十歳も越えた、世間的に見たらもういい大人が本当に情けない。そして、自分も。
軋む身体を起こして時計を見る。深夜3時、辺りは静まり返っていた。
乱された服は綺麗に整えられていて妙なところで几帳面だと思う。別にそのままでも問題は無かったから。
眠るカイジさんの髪を梳きながらボサボサな髪だなと思った。長いくせに手入れの一つもしていないなんて。そう考えながら前髪を触ると、その隙間から黒い瞳がこっちを見ていた。



「佐原っ」



目が合った瞬間にやばいなと思った。たぶん、殴られる。そう感じたのだ。けれど殴られると思っていた顔にも頭にも拳が振り下ろされることもなく、代わりに身体を抱きしめられた。
そういえば、セックス以外で抱きしめられたのなんていつぶりだったろう。覚えていないしそもそも無いのかもしれない。
カイジさんは俺を抱きしめたまましばらくそうして、泣いた。これじゃ俺が悪いみたいだ。



「カイジ、さん?」



呼び掛けても嗚咽と鼻を啜る音しかしなくて、たぶん服が汚れているなと予想してみる。洗えばいいんだけど、気持ちの持ち方だ。
俺はどうしてカイジさんが泣いてるのか分からない。なのにどうしてこっちまで泣きたくならなきゃいけないのか。



「さ、はら、好きだ」
「………」
「だから、も、やめてくれ」



そう言われても俺にはそれしか無いわけで、やめるだなんて出来るわけがない。生きてくためには金が必要でいくらあっても足りないのだ。だから欲しい。俺は金が欲しい。
お金よりもカイジさんの方が大事だなんて思えない。けれど、俺はカイジさんの背中に腕を回すのをやめない。



「……カイジさん、ありがとう」



肯定も否定もできる言葉を長い髪に隠れた耳に囁いた。





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これにて終了佐原が可哀想な話シリーズ。
ハッピーエンド、ではないですが私は満足。
すごく自己満足。








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