「行くのか?」



夜明け前、部屋からいなくなった影を追い掛けて庭に出る。昼間の騒ぎで庭は荒れ放題。その庭で部屋からいなくなった影、佗助はハヤテの頭を撫でていた。声をかけると佗助はゆっくりと振り向き、立ち上がる。その顔は十年振りに出会った数日前に見た顔立ちより、幾分顔色が良くなっているようにも感じた。



「まあ、な。原因は俺にもあるわけだし」
「……いつ、帰ってくるんだ?」
「分からない。相手の出方次第だろうな」



今回の騒動の原因は確かに佗助の作った人口知能が引きがねになっていた。それでもOZを使った実践実験の実行はアメリカ軍。佗助がそこまで罪に問われることはないはずだ。だが佗助はアメリカに行く。またこうして会えるのはいつになるか、想像がつかない。佗助の言う通り、相手の出方次第になる。しかしこれは佗助なりのけじめだろう。祖母ちゃんの言っていた責任とやらを、果たしにいくのだ。



「ま、一年くらい経てば帰ってこれるよ」
「俺としては、もっと早く帰ってきてほしいもんだな」
「馬鹿言うな」
「……待ってるよ」



佗助の手をとり、ぎゅっと握りしめる。骨張った手にはほとんど厚みがない。昔も今も飯を食べてるいないようだ。アメリカに行ったらまたそんな危うい生活を続けるのだろうか。なんだか、俺は心配してばかりだ。佗助はくすり、と小さく笑って俺の手を握り返す。



「きちんと片付けて、祖母ちゃんに顔向け出来るようにするさ」
「ずっと待ってるから、絶対に帰ってこい」
「……分かったよ、帰ってくる」
久しぶりに、笑った佗助を見た気がした。俺は誘われたかのようにその顔に近づき、唇を合わせる。帰ってくるようにっておまじないだ、とちゃらけて言えば無言で強く手を握られた。





おまじない




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