再会


 どうしてこうなった。
 右腕を女の子、左腕を男の子に引っ張られながら那智は考えた。
 こんのすけの話に寄れば前審神者は相当な行為を九十九神である彼らに強いていた。そして審神者である自分は同じ人間であるが故に恨みをかっている可能性が高い、と。
 けれど、現状はどうなのだろう。

「ねぇねぇ、厚ばっかり構ってないでボクとも遊ぼうよーっ」
「オレは遊んでたわけじゃないって言ってるだろ!」

 まさにレインボーブリッヂ。両腕が逆方向の若干下に引っ張られることで、私服であるロングニットがのびる。部屋から出る際につけるように言われた顔を覆うかのような紙越しに、不思議ではあるが周りを見渡した。
 どうしてこうなった。結界も無事はり終え、やけに怠くなった体を根性で動かし、ただ少しお水をいただこうと台所に来た所で捕まった。ほぼ捕縛である。

「ねえ、あるじさん!ボクと一緒に遊んでくれるよね?」
「・・・んん?」
「それじゃあオレとも遊ぶよな!」
 もともと、動物と子どもだけは好きだったせいか、両腕に絡み付くこの子たちを無下にはできなかった。誘いは嬉しいが、今は疲れた体を休ませたい。どう言おうか。今もなお両方で言い争う子どもが可愛いと思う反面、取り敢えず中腰である今の態勢からは一刻も早く脱したいとも思う。

「それじゃあ、一旦戻ってお母さんかお父さんに聞いてみて?」
 今からだと少ししか遊べないでしょう?明日ここで待ってるから。
 そう続けると、二人は一気に目を輝かせた。
「じゃあ、いち兄に聞いてくるねっ!」
「明日・・・待ってろよ、大将!」
 小さな足音と共に両腕が解放され、小さく息をついた。
 誰もいなくなった台所で、念願のお水を飲む。水道水はあまり好きじゃないが、ここの水道水はカルキの風味が全くせず、難なく飲み干すことができた。
誰もいないと、思っていたのだ。

「随分な人気ぶりだな」
「ッ?!」
 喉に引っ掛かるような低音に、反射的に身を強張らせてしまう。いつからだったろうか。こればかりは条件反射で致し方ない。振り向けば、台所の入口に青紫の綺麗な男が立っていた。けれども見えるのは首から下のみで、西日が射す台所では、彼の顔が見えなかった。

「・・・どうも・・・」
「はて。そのように怯えられる覚えはないが・・・」
 そうだろう。いつからか男が近くに寄るだけで、誰かに何かを言われる。それが繋がっていた。ここには何かを言う人などいないと分かっていても、だ。気付かぬ内に身についてしまったものは治すのに時間がいるだろう。それを証明するかのように、心臓の音が全身に鳴り響いていた。

「・・・いえ・・・驚いた、だけです・・・すみません」
「おお、そうだったか。いや、こちらこそすまない。珍しく楽しそうな声が聞こえたものでな」

 静かに、するりと流れるように男が近づいて来る。
 西日の逆光に照らされていた顔が徐々にあらわになる。

「・・・っ、え・・・?」
「俺の名は三日月宗近。これからよろしく頼むぞ、新しい主よ」

 目の前で優雅に微笑む男に息をのんだ。
 忘れもしない。その顔は、紛れもなく藤堂隆宗だった。


  
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